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中国富裕層のハートをつかむ商品新戦略

2010年11月29日(月)15時02分
ソニア・コレスニコフジェソップ、ラーナ・フォルーハー(ビジネス担当)

低価格だけでは売れない

 フランスのファッションブランドのクロエは、人気のバッグ「マーシー」の中国限定版(色は中国でおめでたいとされる赤)を発売する。リーバイスは今後増えていくであろう中流層の消費者向けに「デニゼン」というジーンズの新ブランドを立ち上げた。中国人向けに、欧米よりもスリムなデザインを採用している。

 欧米の企業はあれこれ手を尽くして、中国市場をいかに重視しているかを消費者にアピールしようとしている。上海にあるアップルの直営店では、「中国では客が常に正しい」という文言が目立つ所に掲示されている。

 店員たちはアップルストア名物の黒いTシャツではなく、「加州設計、為中国製造(カリフォルニア州で設計され、中国のために製造された)」と書かれた赤いTシャツを着ている。これはiPhoneなどのアップル製品の裏に刻印されている「アップルによりカリフォルニア州で設計され、中国で組み立てられた」という英語表示のもじりだ。

 多くの企業は中国市場向けの商品を開発・製造するにとどまらず、その商品を中国以外の国にも輸出するようになってきた。ヒューレット・パッカード(HP)は最近、雨や土ぼこりにも耐える「農村部向け」の安価なノートパソコンなどを生産する工場を重慶に建設。このノートパソコンの売れ行きは好調で、HPは他の新興国への展開も計画している。また、ポルシェは新型セダンを世界に先駆けて中国で発売した。

 もちろん、中国向けの製品を作ったからといって売れるとは限らない。ほかの市場との違いを見落としたせいで、つまずく大手企業は数多い。例えば中国では手頃な価格のブランドが受ける一方、ステータスシンボルとして欧米の製品を買う人も多い。「エブリデー・ロー・プライス」のスローガンを掲げた米小売り大手ウォルマートが苦戦しているのはそのせいだ。

 どこに出店するかを決めるのも難しい。外国への関心が高い富裕層は、国外旅行で欧米の高級ブランドの製品を買い込む。ラルフ・ローレンやルイ・ヴィトンといったブランドは当初、沿海部の大都市に出店したが、売れ行きがいいのは重慶や大連といったややマイナーな都市の店舗のほうだった。

今どきのニーズに目配り

 難問は山積しているものの、手応えを感じ始めた企業も多い。中国の消費支出はこの2年、前年比15%増を続けている。甘やかされて育った一人っ子世代(貯蓄より使うほうに慣れた人々)が次々と大人の仲間入りをするにつれ、消費支出は伸び続けると大半の専門家はみている。

 欧米ブランドの製品にならいくらでも金を払うという中流層が増えるにつれ、健康関連商品の分野も大きな成長が見込まれている。その背景には、中国企業より確かな製品を手掛ける欧米企業への強い信頼感がある。

「中国らしさを取り入れた外国の高級ブランドの食品や、美や健康に関する製品を作れば大儲けできるだろう」と、BCGのシュイは言う。化粧品ブランドのエスティローダーやランコムがいい例で、中国市場を念頭に商品開発をしたり、別の化粧品ブランドを買収したりしている。

 成功の秘訣はやはり欧米らしさを大事にしつつ、中国人のニーズにもバランスよく目配りすることだろう。金持ちの中国人は明朝風デザインの椅子や国産陶磁器に食指を動かす一方、ピザハットにも足を運ぶ(中国のピザハットは上質な食器や白いテーブルクロス、一流の美術品をそろえたデート向きのレストランだ)。

「プロジェクトの打ち上げのときは、フォーシーズンズホテルやリッツといった一流どころで好きなものを食べていいよ、とうちのチームの人間には言っている」と、上海に本拠を置くCMRコンサルティング社のショーン・レーン社長は言う。「でも、みんないつもピザハットを選ぶんだ」

 贅沢さを醸し出すのは必ずしも価格ではない。重要なのは「どう認識されているか」ということのようだ。

[2010年11月 3日号掲載]

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