最新記事

新興国

BRICs時代はこれからが本番

世界経済危機もチャンスに変えて成長する新興国はますます大きな存在になる──BRICsの名付け親が2010年を展望

2010年1月26日(火)16時08分
ジム・オニール(ゴールドマン・サックス チーフエコノミスト)

 今後の世界経済で新たに力強い役割を果たすのはブラジル、ロシア、インド、中国だ──われわれがゴールドマン・サックスでそう予測し、この国々にBRICsと命名したのは8年以上前のこと。だがそれ以降、BRICsというくくりの耐久性は、経済的な試練を経てみないと分からないと感じることも多かった。

 真の実力は逆風の中でこそ分かる。だとすれば、08年9月のリーマン・ショック以降の世界経済情勢は、逆風の要件を十分満たしている。そしてBRICsはこの混乱をうまく乗り切ってきた。

 2027年までにBRICsのGDP(国内総生産)の合計はG7(先進7カ国)のGDPの合計を超える可能性があると、われわれは考えている。これは当初の予想より10年速いペースだ。今回の危機はなぜ、BRICsにとってプラスに働いているのか。

 中国は、持続不可能な輸出主導型成長モデルの転換を強いられた。欧米の消費低迷を受け、急いで内需を刺激しなければGDP成長率8%以上という目標を維持できないと、中国政府は判断したのだ。

 賢明かつ機敏な景気刺激策は、既に効果を表している。中国は09年末には日本を抜いて世界第2位の経済大国に躍り出る可能性が高い。17年後にはアメリカをも抜き去るとわれわれはみている。

 ブラジルでも世界経済危機がプラスに働いた。天然資源などの商品価格は大幅に下落したが、政府は慌てなかった。そしてルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領が03年以降進めてきた、急成長より安定成長を優先する政策が功を奏した。

 歴史的にインフレに悩まされてきたブラジルだが、現在はインフレも抑制され、投資環境は良好だ。10年末のルラ退任後の政権移行がスムーズにいけば、引き続き年5%の成長も可能だろう。

インドは中国並みに成長

 世界最大の民主主義国であるインドも、最悪期をうまく乗り越えてきた。2大貿易相手国であるアメリカとイギリスが数十年に1度の不況にあえいでいるのに、年6%以上の成長を遂げることなど誰が想像しただろう。

 5月の下院選挙でマンモハン・シン首相が属する与党が快勝してからは、新たな改革への期待が高まっている。政府がインフラ整備を進めて政策決定を迅速化すれば、11億人の消費パワーが解き放たれて、向こう10年間は中国並みの成長もあり得る。

 BRICsのなかで唯一注意を要するのがロシアだ。世界的な景気後退と原油価格の急落は、ロシアの資源依存度の高さとひと握りの人間にカネと権力が集中し過ぎている構図をあらためて浮き彫りにした。BRICsという高成長グループにとどまるには、人口減少に歯止めをかけ、法の支配を強化してビジネスを活性化し、経済のほぼあらゆる側面で効率化を図る必要がある。

 BRICs以外の新興国はどうか。ゴールドマン・サックスでは次に有望な11カ国(イラン、インドネシア、エジプト、韓国、トルコ、ナイジェリア、バングラデシュ、パキスタン、フィリピン、ベトナム、メキシコ)を「ネクスト11(N11)」と呼んでいる。その多くは、今回の危機から予想を上回る立ち直りを見せた。

 アジアで最も力強い成長を見せそうなのは、人口が2億を超えるインドネシアだ。BRICs構成国並みの大国になるとの見方もある。私自身はその見方に懐疑的だが、堅調な内需に支えられた持続的成長への道を歩んでいるのは確かかもしれない。楽観論の根拠となっている現政権の強力なリーダーシップが続くかどうか、今後数年は様子を見る必要があるが、見通しは明るそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルのミサイル、イランの拠点直撃 空港で爆発

ビジネス

日経平均は1100円超安で全面安、東京エレクが約2

ワールド

イスラエルのイラン報復、的を絞った対応望む=イタリ

ビジネス

米ゴールドマン、24年と25年の北海ブレント価格予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中