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「モスクワの春」の寒々しい現実
この演説はロシア政府の命令で作成された独立系機関の報告書の中で、官憲による「ゆすりたかり」の深刻さが指摘されたことへの対応だったようだ。ロシア政府の控えめな数字でも、当局者の汚職はGDP(国内総生産)の3分の1を食いつぶすとされている。
メドベージェフはこの報告書の内容に激怒したらしい。だが、官憲による犯罪の被害者を支援するNGOのアムネスティ・フォー・ビジネスによると、メドベージェフが汚職との聖戦を宣言して以降、警官による恐喝事件は逆に増えたという。このNGOの代表ヤナ・ヤコブレワは、でっち上げとみられる容疑で8カ月間投獄された。
どうやらメドベージェフの役割は、もっともらしい発言をして大衆の怒りを警官や役人の腐敗からそらし、真の改革をやらずに済ませることにあるようだ。
メドベージェフのビジョンとお寒い現実の乖離を物語る例として、さらに衝撃的なのは弁護士セルゲイ・マグニツキーのケースだ。マグニツキーは、FSBとつながりがある税務警察の人間による犯行とみられる5億ドル相当の税金詐取を暴こうとした。
ところが、マグニツキーは自分が告発した税務警察の手で昨年1月逮捕され、モスクワで最悪の刑務所に1年近く拘禁された末、11月に膵臓の機能不全で死亡した。メドベージェフは公の場でその死を悼み、関係者の処罰を約束した。
だがマグニツキーの集めた文書で関与が明白だったにもかかわらず、警察と税務当局、FSBの幹部に対する一斉摘発は見送られ、ひと握りの下っ端が解雇されただけ。しかも起訴された当局者は1人もいなかった。
メドベージェフはプーチンが築き上げた権力システムの「中枢を破壊しないように気を付けている」と、ロシア科学アカデミー・エリート研究所のオルガ・クルイシュタノフスカヤは指摘する。
メドベージェフの改革をあまり信用できないもう1つの重要な理由は、そのために登用された人材にある。彼らはかつてプーチンの下で、民主主義の解体と言論の自由に対する制限に加担した面々だ。
例えばウラジスラフ・スルコフ。先日、ロシア政府の後援でワシントンを訪れた市民活動家の代表団の団長を務めた人物だ。訪米した代表団はロシアの深刻な腐敗を率直に語り、アメリカ側に解決策の助言を求めた。スルコフはまた、ロシア政府の新しい自由化ビジョンの概要を新聞に寄稿し、メドベージェフが提唱する「ロシア式知識経済」を強調した。
だが、このスルコフはわずか5年前、リベラルとは懸け離れた「主権民主主義」(ロシア流の統制された民主主義を指す)を唱えた人物でもある。国益の名の下に全政党に大統領への支持を要求する主権民主主義の考え方は、今もロシアでは主流派だ。さらにスルコフは、排外主義的な青年組織ナーシ(友軍)の創設者でもある。
そのためロシアの人権活動家の間には、スルコフの新しい役割に対する疑念が広がっている。「スルコフなどのプーチン派と同じテーブルに着いて、ロシアの腐敗をアメリカ人に話しているなんて信じられない」と、汚職監視団体トランスペアレンシー・インターナショナル・ロシアのエレーナ・パンフィロワはワシントンへの旅を振り返る。
明らかにスルコフは今も依然としてロシア政府の代表的理論家の1人だ。最近はたまたま、見掛けが少しだけリベラルな立場を売り込んでいるにすぎない。
エリート研究所のクルイシュタノフスカヤによれば、メドベージェフの改革はプーチン・チームが05年以降に練り上げた「ロシア2020」という明確なプランの一環だという。このプランの第1段階は、あらゆるメディアと政党をロシア政府の支配下に置き、プーチンの権力を盤石なものにするというもので、プーチン自身の手で実行された。