コラム

人種分断と銃蔓延に苦悩するアメリカ

2016年07月12日(火)15時00分

 ルイジアナとミネソタの事件に対しては、全米で「警官の暴力反対」という主旨の抗議行動が続いていますが、ダラスの事件では「全く正当化のできない報復テロ」が起きてしまったために、人種問題をめぐる議論は複雑化しています。

 論点の一つは、「ルイジアナとミネソタの事件に対する黒人側の抗議行動が過剰であったかどうか?」という問題です。つまり「過激な動画を拡散し、怒りを爆発させた」ことが「心に闇を抱えた退役軍人の異常な報復テロ」を触発したのではないか、という批判です。

 この点については、2014年から全国的な運動として広がってきた「Black Lives Matter (BLM)」という運動への賛否が論争になっています。black lives というのは複数形で「黒人の生命」ということであり、最後の matter というのは動詞で「それは重要だ」という意味です。日本語に意訳すると「全ての黒人の生命は尊重されるべき」運動ということになります。「自分たちが殺されるのはおかしい」という非常に明確なメッセージを発するために立ち上がった運動です。

 このBLMは、ルイジアナとミネソタの事件を受けて抗議行動を強化していますが、右派からは強い批判があります。例えばサラ・ペイリンなどは「BLMこそ人種分断の元凶。その自覚がない以上は狂言回しに過ぎない」という言い方で批判をしています。一部には、BLMは「暴力で白人を迫害しようという新ブラック・パンサー党と提携している」というような中傷もあります。

 注目されるトランプ候補について言えば、一連の事件が起きる前は一貫して「正しいのは警官。自分は100%警官の側に立つ」と言ってきましたが、さすがに今の状況ではそんな無責任なことを言うわけにはいかないのか、本稿の時点では言動を控えているようです。

【参考記事】リングと米社会で戦い続けた英雄アリが語った奇跡の一戦

 もう一つの論点は、そもそも「白人警官による黒人射殺事件は、どうすれば防止できるのか?」という問題です。

 この点については、アメリカでは「政治的な配慮」からオブラートに包んだような言い方しかされていないのですが、私には少なくとも次の3つの問題があるように思います。

 1つは、黒人独特の言語やカルチャーについて白人警官が正確に理解できていない、そこで多くの局面でコミュニケーション上の誤解が起きていることです。ルイジアナの事件では巨漢の被害者に対して白人警官の2人が「馬乗り」になっていましたし、ミネソタの事件では被害者は決して反抗的ではなかったようです。

 言語面のコミュニケーションが上手くいかず、被害者なりの「反抗姿勢」の「危険度」が警察官に正確に伝わらなかった、そこでおそらくは「殺意と誤解され」たのだと思います。その背景に、多くの黒人家庭で子供に対して「卑屈になるな」と厳しく教育していることがあります。結果的に、言葉の強さや独特のアクセントを理解しない白人警官は大変な誤解をして「身の危険」を感じてしまうのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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