コラム

米軍の南シナ海の哨戒活動は、なぜこのタイミングで始まったのか

2015年10月29日(木)16時10分
米軍の南シナ海の哨戒活動は、なぜこのタイミングで始まったのか

オバマ政権は今後も哨戒活動を継続すると表明 U.S. Navy-REUTERS

 今週27日、アメリカ海軍第7艦隊所属のイージス駆逐艦「USSラッセン」(アーレイ・バーク級)は南シナ海で中国が造成した人工島から12カイリ以内を含む海域を航海しました。

 中国は人工島から12カイリの海域を領海と主張していますが、人工島として埋め立てる前までは、元の島は満潮時に海面下に沈んでいたために、国際法上は領有権主張が認められません。今回の哨戒活動がアメリカの主張する「航行の自由」を確保するための行動であることは明白です。

 オバマ政権は、この哨戒活動は継続して実施すると言っていますが、では、どうしてこのタイミングで始まったのでしょうか?

 1つには、オバマ政権のアジア外交の中で計算されたタイミングということです。9月に行われた米中首脳会談で、オバマ大統領は習近平主席に対して、南シナ海における国際法遵守と「航行の自由」の確保に関する主張をしていて、これに対して習近平主席は「自国の固有の領土」だと反論したようです。この応酬を受けて、オバマ政権はその立場を行動で示したと見られます。

 また今週の中国では、政府首脳による「5カ年計画策定」の会議が行われています。そこで示される今後の成長見通しは、米国経済にも世界経済にも大きな影響があります。ですから、その見通しが出る前に「中国は国際ルールに従った国家と経済の運営を」というメッセージを送るという意味合いもあると思います。

 さらに週末にはソウルでの「日中韓首脳会談」も予定されており、中国へのプレッシャーはその前のタイミングで仕掛けた方が効果的という計算もあったことが推測されます。

 2つ目は国内政治です。オバマ政権の任期は残り1年と少々となり、次期政権への「引き継ぎ」を意識する時期になって来ました。そこで、特にこの間、政権の課題として注力してきた「アジアにおける軍事・外交のリバランス戦略」を強くアピールする必要があったという見方ができます。具体的には大統領選における政策論争で、対中国外交の問題を意識してもらいたいということです。

 まず共和党ですが、現在はトランプ、カーソンという「政治の素人」への支持が続く中で、「まともな政策論争」はできていません。共和党は「軍事タカ派」を抱え、加えて「反共で親日」だという先入観が、特に日本の政官財界にはありますが、実際は「ブッシュ・江沢民の蜜月」であるとか「ニクソンの毛沢東との電撃外交」など、米中関係の基軸となる判断は共和党が下してきています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

ニュース速報

ビジネス

中国、2017年は改革推進へ 需要底上げも図る方針

ワールド

韓国国会、朴大統領の弾劾訴追案を可決 与党から多く

ワールド

トルコ、大統領権限強化に向けて来年国民投票へ=副首

ビジネス

独ビルト紙、量的緩和を延長したECB総裁を批判 州

MAGAZINE

特集:THE FUTURE OF WAR 未来の戦争

2016-12・13号(12/ 6発売)

AI、ドローン、ロボット兵士......進歩する軍事技術は 新時代の戦場と戦闘の姿をここまで変える

人気ランキング

  • 1

    今がベストなタイミング、AIは電気と同じような存在になる

  • 2

    北朝鮮が中国への「大麻」輸出に乗り出す

  • 3

    韓国「崔順実ゲート」の裏で静かに進む経済危機

  • 4

    米ルビオ議員、南シナ海の領有権問題で対中制裁法案─…

  • 5

    光熱費、電車賃、預金......ぼったくりイギリスの実態

  • 6

    トランプが仕掛ける「台湾カード」 中国揺さぶりのも…

  • 7

    マドンナ、トランプに投票した女性たちに「裏切られ…

  • 8

    闇サイトが「トランプ暗殺」の資金を募集

  • 9

    トランプ政権の国防を担うクールな荒くれ者

  • 10

    来週プーチン露大統領来日、北方領土への期待値下げ…

  • 1

    トランプ-蔡英文電話会談ショック「戦争はこうして始まる」

  • 2

    マドンナ、トランプに投票した女性たちに「裏切られた」

  • 3

    トランプ氏、ツイッターで中国批判 為替・南シナ海めぐり

  • 4

    今がベストなタイミング、AIは電気と同じような存在…

  • 5

    イギリス空軍、日本派遣の戦闘機を南シナ海へ 20年…

  • 6

    内モンゴル自治区の民主化団体が東京で連帯組織を結…

  • 7

    「3.9+5.1=9.0」が、どうして減点になるのか?

  • 8

    インターポールも陥落、国際機関を囲い込む中国の思惑

  • 9

    トランプ、ボーイングへのエアフォース・ワンの注文…

  • 10

    韓国「崔順実ゲート」の裏で静かに進む経済危機

  • 1

    トランプファミリーの異常な「セレブ」生活

  • 2

    「トランプ勝利」世界に広がる驚き、嘆き、叫び

  • 3

    注目は午前10時のフロリダ、米大統領選の結果は何時に分かる?

  • 4

    68年ぶりの超特大スーパームーン、11月14日に:気に…

  • 5

    米大統領選、クリントンはまだ勝つ可能性がある──専…

  • 6

    トランプ勝利で日本はどうなる? 安保政策は発言通…

  • 7

    【敗戦の辞】トランプに完敗したメディアの「驕り」

  • 8

    安倍トランプ会談、トランプは本当に「信頼できる指…

  • 9

    「ハン・ソロとレイア姫」の不倫を女優本人が暴露

  • 10

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本再発見 「五輪に向けて…外国人の本音を聞く」
リクルート
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

『ハリー・ポッター』魔法と冒険の20年

絶賛発売中!