コラム

「中央官庁を持ってくれば」大阪は再生するのか?

2015年01月15日(木)13時28分

 大阪の府市合併(大阪都構想)問題は、今年住民投票が実施されるなど山場を迎えているようです。行政コストを削減すること、二重行政を簡素化することなどに関しては合理性のある施策だと思います。

 ただ、橋下徹市長自身が府知事の時代から指摘してきたことですが、大阪が再生するには経済が活性化しなくてはなりません。府市の合併というのは要するにムダの排除であって、マイナスを減らす効果はあるかもしれませんが、地域経済へのプラス効果は少ないからです。この点に関する議論は依然として低調であり、そのために大阪府・市の改革というのは、改革のモデルとして十分には機能していないように見えます。

 この点に関して、橋下氏は、年初の1月4日にこんなツイートをしていました。

「大阪都を実現して、東京・大阪間をリニアで結び、国の行政機構をまずは二極化。東京一極集中の是正策の切り札が大阪都構想と、東京・大阪間のリニア開業だ。大阪都構想は今年5月に住民投票。東京・大阪間のリニア開業もいよいよ動き出す」

 リニアを通す以上は大阪延伸もやるというのは、分からない議論ではありません。ですが、これでは大阪の再生は「中央官庁の半分を持ってくる」、つまり民間ではなく、あくまで官庁を中心とした経済に期待するということになります。

 もしかしたら、これは橋下氏としては政策論としては本意ではなく、「官公労」に対して「多少はフレンドリー」な姿勢を取ることで、民主党との連携を視野に入れた政治的メッセージを込めただけなのかもしれません。

 それはともかく、大阪を再生するのに「官庁だのみ」というのはアイデアとしてまったく面白くありません。経済成長にはつながらないし、仮に経済的にプラスの効果があるとしたら、そのカネの出所は税金であり、行政コストはアップすることになるからです。それ以前の問題として、民間の経済成長を喚起することがなくては、社会全体の再生にはなりません。

 私は以前にもこの欄で述べたことがありますが、大阪は「商都」として再生するのが本道であると思います。モノやカネが動く市場として、更にその市場を支える事務の一大拠点として、この大阪は江戸時代から昭和までの長い時間、繁栄を続けてきました。当時はアジアを、そして世界を代表する商都であったと思います。その機能の再生が望まれます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

プーチン氏、5月に訪中 習氏と会談か 5期目大統領

ワールド

仏大統領、欧州防衛の強化求める 「滅亡のリスク」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story