コラム

「シリア領内空爆」は本格的な戦争の始まりなのか?

2014年09月24日(水)13時29分

(2)アサド政権に事前通告しており、事実上アサドの承認の上で行われた攻撃ということになると、「アサドは化学兵器を使用した人類の敵」だから「政権転覆」すべきだというストーリーも崩れています。ということは、今回の空爆は事実上「アサドへの援護射撃」になるからです。同時に「アラブの春」による独裁政権の打倒運動は「正義」だというオバマ政権が一貫させていた態度も曖昧になりました。

(3)イランに関しては、攻撃主体の5カ国の枠組みには入っていないのですが、本稿の時点で「イランにも事前通告をしていた」という報道が流れました。仮にそうだとすると、アメリカのイランとの関係改善は少しずつ進んでいるというニュアンスが濃くなります。それはそれで良いニュースなのでしょうが、イラン国内ではロウハニ大統領の穏健路線に対する反対は収まっておらず、今後の展開はまだ予断を許しません。

(4)オバマ政権は、当初はISISと戦うと言っておきながら、シリア領内の空爆ではコーラサンも標的にしたわけですが、その理由は「米本土テロの危険があった」という説明でした。ですが、その空爆を受けてFBIが言い始めたのは、確かに本土テロの危険は高まっているが、危険なのは「ローンウルフ(一匹狼)」型のテロリストだというのです。もちろん、インテリジェンス(諜報)を得た上で言っているのでしょうが、支離滅裂な印象を与えます。

 アメリカが開始したのは「一体誰のための、誰が相手の戦争なのか?」かなり曖昧な作戦となりました。では、オバマは何の考えもなく、無責任に軍事力を行使したのでしょうか?

 必ずしもそうとは言えません。明らかに危機的な状況があり、そこに対症療法的に関与を始めた、その限りにおいてオバマにはオバマなりの合理性はあるのだと思います。ですが、アメリカが本格的に「新たな戦争」に突っ込んでいくという理解をする必要はないと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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