コラム

少子化問題その根源を問う(第1回)

2012年05月07日(月)12時49分

 毎年5月5日の「こどもの日」が来ると、わざわざ総務省が15歳未満の「子ども人口」が減った話をプレスリリースとして出し、新聞やテレビが発表するというのが恒例になっているようです。今年の場合も、各紙の報道を見ると「15歳未満の子供の推計人口は、前年比12万人減の1665万人。子供の数の減少は31年連続」というような表現になるわけです。

 そもそも「こどもの日」というのは祝日法の条文によれば「こどもの幸福をはかる」ための日にだそうですが、毎年その日になると「子どもが減った、子どもが減った」と嘆くというのは、何ともやり切れない感じがします。

 それにしても、少子高齢化というのは深刻な問題です。ですが、ここ数年の動向を見ていると、もう小手先の対策ではダメではないかという印象があるのです。勿論、若年層の経済力が損なわれていること、保育所の待機児童の問題、男性の家事・育児参加の問題、長時間労働の問題、数度の産休が職場のキャリアパスを徹底的に不利にする問題、非嫡出子や婚外子への差別の問題などを1つ1つ「つぶして」ゆけば何らかの成果があるのでしょう。

 ですが、そうした「積み上げ」でもそれほど大きな数字にならないのではないか、それは非婚率が上昇しているからです。生涯非婚率が上昇している、特に男性では20%に乗るというような状況を前にしては、どんな対策も効果には限界があるように思われます。

 ではそうした非婚化という問題を含めた、少子化の根源的な理由は何なのでしょうか? この欄では、具体的な政策論ではなく、もう少し深層の文化的な問題として少子化を考えてみたいと思います。1つの仮説ですが、私が日本社会を見ていて感じるのは、日本では「ロマンチック・ラブ」の神話と「核家族」のイデオロギーが壊れてしまっているという印象です。

 それにしても、この「ロマンチック・ラブ」とか「核家族というイデオロギー」という書き方をすると日本では全く説得力がないわけで、幻想であるとか「きれい事」だというイメージになってしまうわけです。例えば「恋愛は青春の思い出だが、結婚はまた別」とか「好きな人も結婚してしまえば家族になってしまう」というような言い方が自然であって、つまりは「ロマンチック・ラブ」が「核家族の求心力」になるというのは非現実的だというのが今でも日本では常識としてあるように思います。

 我々はこうした文化をすっかり自然なものとして受け止めているわけで、その派生として、特に強い恋愛感情のことをわざわざ「純愛」だと言ってみたり、仲の良い夫婦を「ラブラブ」などという言うわけです。こうした表現だけを取ってみれば、単に羞恥の文化があるからそうした言い方があるのだという説明も可能かもしれません。ですが、今風の言い方で言えば「恋愛と結婚は別腹、更には不倫は別腹」などということを面白かしく言いながら、そっちがデフォルトに近い感覚があって、「純愛」や「ラブラブ」の方が例外的というのはカルチャーとして相当に確立しているように思うのです。

 だとすれば、こうしたカルチャーそのものが非婚少子化の根源にあるのではないでしょうか。ロマンチック・ラブなどというから特殊に見えますが、要するに恋愛というのは「この相手を生殖のパートナーにして次世代を残したい」という本能的な直感であるわけです。また核家族のイデオロギーというと、何か大げさなものに見えますが、要するにヒトの子というのは、大変に未熟なまま生まれてくる一方で、脳の機能が高度化した生物なので、成熟するまでの間は、成熟した親がエサの供給だけでなく、感情面の安定にも責任を持たねばならないわけです。その行動を生物学的な親であるカップルが担うという、人類には必然的な行動様式に過ぎないとも考えられるのです。

 逆に子の視点で見れば、ロマンチック・ラブの考え方が軽視されているということは、「もしかしたら自分の出生に当たっての両親のパートナー選択は生殖本能による直感ではなかったのではないか?」というアイデンティティの危機をもたらす可能性があるわけです。また未熟な自分を脳の機能を含めて成熟へと導く行動を、両親が「最優先の問題としていない」つまり核家族という単位を彼等が行動の最優先の単位としていないということは、子の視点からは大変な危機になるわけです。

 勿論、ロマンチック・ラブとは違う経緯で結婚したカップルの子や、両親のどちらかが長時間労働で家庭を省みない状況の子どもが、全員何らかの危機を抱えているとは限りません。人間の精神というのは、どこかで安定を実現する複雑な回復力を持っているからです。ですが、そうした子供たちは、自分が親になっていく際の「役割モデル」としては自分の両親を描くことは難しいわけで、強い資質の子であれば親に反発して自分の世代では核家族の求心力を作るかもしれませんが、多くの子たちは自分の親に「役割モデル」を見出せぬまま、結婚とか出産への動機を失ってしまったのではないかと思われます。

 その意味で、1947年前後に毎年220万人という人口の「塊」を作った団塊世代が、74年前後には同じように毎年210万人に達する「第2次ベビーブーム」の塊を作った一方で、その「第2次」の人々はついに「第3次ベビーブーム」のピークは一切作らずに出産ピークの年齢から静かに去っていこうとしている、その背景には団塊世代が団塊2世に対して「ロマンチック・ラブと核家族」のモデルを提示できなかったという問題があるのではないかと思うのです。

 勿論、それ以前の日本の世代は核家族ではなく、大家族主義があり、その中で本人の意志より家族の意志によるパートナー選択ということがずっと続いていたわけです。では、団塊世代において何が起こったのでしょうか? 1つの仮説は、家族のあり方として大家族が崩壊して物理的に核家族になったのに、その核家族が精神的な求心力を持たなかったということです。また、自己決定権という思想がある程度浸透していたにも関わらず、マイナスの選択あるいは「敗北」としてロマンチック・ラブによるパートナー選択ができなかったということなのかもしれません。

 私はここで団塊世代を批判しようとは思いません。ただ、彼等が若き日に「22歳の別れ」だとか「なごり雪」などというセンチメンタリズムに乗せてロマンチック・ラブという思想から敗北していったことが(勿論、全員ではないにしても)、40年後に日本を少子化による国家的な危機に陥れる契機になった、そこに何らかの必然性があるのなら、その解明がこれからの少子化克服のカギになるのではと思うのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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