コラム

寒冷地の忍耐、異常気象続くアメリカ東北部

2011年11月07日(月)12時28分

 21世紀に入ってからアメリカでは、サマータイムの期間が延長されており11月に入ったこの週末、やっと冬時間に移行しました。この時期の日照時間に時計を1時間ずらすというのは影響が大きく、朝がいつまでも暗いのは多少改善されたものの、今度は日没時間が時計の上ではグッと早くなり、否が応でも冬の到来を感じさせます。

 今年の場合ですと、サマータイム期間中の先々週に米国東北部では雪が降るという異常気象だったわけで、余計に冬の訪れを痛感するのですが、この季節はずれの雪は思わぬ被害をもたらしています。とにかく広範囲にわたって停電が続いたのです。

 私の住むニュージャージーでも被害があったのですが、何といってもひどかったのがコネチカット州でした。10月29日の雪の後、70万世帯が停電、これは州内の53%に上るのだそうです。その後の復旧もなかなか進まず、雪から一週間経った先週末の時点でも万単位の停電世帯が残っているそうです。

 オバマ大統領は早々に非常事態宣言を出しましたし、州政府は州内に電力を供給している「コネチカット電灯電力社」に対して、復旧作業に著しい遅れが出ているとして、厳格な査察を行うとしています。ですが、同社としては、予想不可能な被害のために復旧チームとしてはこれ以上のスピードアップは不可能と主張しているのです。

 どうして広範囲な停電が起きているのかというと、季節的に落葉が終わっておらず、樹木の上に積雪するという異常な自然現象になったことが大きいようです。普通は降雪というのは落葉が終わって樹木が裸になってからなので、樹木の上に相当の積雪量がたまるということのないように、自然の摂理が出来ているのですが、今回はそうした「仕様」外の条件になったというわけです。積った雪はそのまま凍り、重たい氷が相当の大木でも倒してしまう、その樹木が電柱や電線をなぎ倒すというような事故が大量に発生したわけです。

 ちなみに、コネチカット州というと、90年代までは「アイス・ストーム」といって、過冷却の水滴が地面に当たった瞬間に氷結する「氷雨」のために、電線の周囲に透明な氷が発生して電線が切れるというような事故が多く発生していました。アン・リー(李安)監督の初期作品『アイス・ストーム』では、切れた電線に接触することで悲劇が起き、それが家族崩壊の荒涼とした物語の転回点になっていましたが、あの映画も正にコネチカットが舞台でした。今回は厳冬期の氷雨ではなく、初冬の早すぎた雪のための被害というわけです。

 コネチカットの人々は、ある意味では冬の停電というのには経験があるわけで、怒りながらも耐えているのです。電気の通じている友人知人の家に身を寄せるとか、薪をたくさん買ってきて暖房の代わりにするとか、家の中でも厚手のダウンジャケットを着てしのいでいるとか、相当な忍耐を続けている家庭もあるそうです。

 忍耐といえば、私の住むニュージャージーでは停電の規模はコネチカットほどではないものの、積雪や凍結のために倒れた木の処分には多くの市町村が困っているようです。基本的には、ニュージャージーの場合、倒木や伐採した潅木の処分は、道路脇に放置しておくと市町村が回収して、それを砕いて腐葉土の原料としてリサイクルしてくれるのです。ですが、今回の倒木は余りに量が多いので、例えば州北部のマウンテンサイド町では、町の財政が危機的な状況の中で、倒木の回収ができないと「ギブアップ」して話題になっています。

 町民に対して「申し訳ないが倒木を道路脇に出すのは止めて、自分の敷地内に戻して、そのあとは各自で処分するように」という指示を出したところ、当初は多くの町民からクレームが出たそうですが、やがて何とか納得してもらえた、州内のローカル報道ではそんな話を聞きました。

 いずれにしても、寒冷地特有の厳しい自然に対して、コネチカット州の電力会社にしても、マウンテンサイド町の公共サービスにしても、人的パワーの限界にブチ当たる中で、住民はじっと耐えているという感じです。長引く不況、繰り返される異常気象の結果、人々は良くも悪くも忍耐強くなっているようです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英インフレ率目標の維持、労働市場の緩みが鍵=ハスケ

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story