Picture Power

赤外線があぶり出す コンゴの「見えない」悲劇

Reality in Infrared

Photographs by Richard Mosse

ベルギー植民地時代の軍事訓練施設で見張りをするコンゴ国軍の兵士

 内戦が続くコンゴ(旧ザイール)の現状は言葉で語るにはあまりに複雑だ。過去15年もの間、40以上の武装勢力が多様な利害関係の下、戦闘を繰り広げてきた。忠誠を誓う相手は次々変わり、明確な善悪の区別もない。残されたのは残忍で痛ましい犠牲の数々だ。1年間で発生したレイプは40万件、10年間の死者は540万人。死者数の人口比では、悪名高いダルフール紛争の約10倍にも上る。

 写真家リチャード・モスは、通常のフィルムでは捉え切れない繁雑な現場を描くため、斬新な表現法を用いることにした。彼が選んだのは、被写体の反射率によって目に見える色とは別の色を発色させるカラー赤外フィルム。迷彩色で偽装された対象物を発見するため、米軍の依頼を受けて開発されたものだ。肉眼では識別できないものが写真を通して見えるようになる。

 これによって写し出されたのは、一面に広がるピンクの大地。その中に、人工物や人物など反射率の異なる対象物がより明確なコントラストで浮かび上がる。それでも彼は、この国の物語を描き切ることはできていないと感じている。それは言葉でも、写真でもすべてを表すことのできないほどの悲劇なのだ。

 撮影:リチャード・モス
1980年アイルランド生まれ。米エール大学、英ロンドン大学などで美術を学んだ後に、英文学も学ぶ。アートとフォトジャーナリズムの両手法を用いて写真のジャンルを超え、旧ユーゴ、イラク、コンゴなどの紛争地、イラン、パキスタン、ハイチ、日本の災害など世界の複雑な問題や苦難を写し出す。本作は写真集『INFRA』(米アパチャー社刊)からの抜粋

Photographs by Richard Mosse­--In­stitute, from the book "Infra" published by Aperture and co-published by Pulitzer Center on Crisis Reporting

<2012年3月7日号掲載>

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