コラム

日本で保守派を巻き込んで同性婚を合法化する方法(パックン)

2022年12月23日(金)15時00分

同性婚の権利を保障する法案に署名し、同法の成立を喜ぶバイデン米大統領ら(2022年12月)REUTERS-Kevin Lamarque

<アメリカで同性婚の権利を保障する法律が成立したが、保守派も協力して成立したこの法律は日本にも応用できそうだ>

毎年この時期に家族に怒られることがある。12月中旬になると、僕は秋以降に子供に与えたゲームや洋服、スポーツ用具などをこっそり没収して、箱に入れ直すのだ。そして、それをきれいに包装して、クリスマスツリーの下に置く。子供はクリスマスの日にプレゼントの多さに一回喜ぶが、箱を開けて「なんだ......すでにもらっているヤツじゃん!」とか「これ、ずっと探してたよ!」と、憤慨するわけ。

アメリカ連邦政府は最近、同性愛者の方々にこれと似たような、ありがたみのなさそうなものを贈った。というのも、「同性同士の結婚は合法だ」という内容の法律を作ったのだ。アメリカで同性婚は2015年の最高裁判決ですでに合法とされている。すでにもらったものを、包み直して再度プレゼントしているだけ。喜ぶはずがない......。

と、思いきや! 今回の法律成立は同性愛者やその味方の人々から大絶賛されている。「怒られサンタ」の僕からみて、少し悔しいほどだ。

何が違うかというと、危機感だ。現在、最高裁の判事は9人中6人が保守派。保守が決定権を持つなか、今年6月に約50年前の判決を覆して「人工妊娠中絶の権利は憲法で保障されていない」という、新たな判決を出した。それを受けて、中絶への規制が全体の半数ほどの州に広がりつつある。おもちゃやゲームどころじゃない。女性からみれば、すでに与えられたとても大事なものが没収された気分だ。

同性婚「できない」と「認めない」の差

6月のこの判決の意見書で、保守派のクラレンス・トーマス判事は同性同士の結婚の権利を認めた2015年の判決をも見直すべきだと主張した。女性の次は、同性愛者が権利の略奪に遭いそうな風が吹いていたのだ。

これは例えばアニメ映画でおなじみのいじわるなキャラクター「グリンチ」が、ある町のクリスマス・プレゼントを全部奪った上「次はあなたの町だ!」と襲撃を宣言しているような状態だ。当然、同性婚の権利を重視する人々の間で、危機感が急上昇。だから、今回の立法がありがたく感じられるわけ。グリンチ判事たちのおかげだ。

実は、そもそもこの法案は可決できると誰も思ってもいなかった。出発点は、民主党が支持基盤のリベラル派へのメッセージ発信のためにだけにこれを提案しようとしたことだった。しかし意外にも、何十年も前から「同性愛反対!」と訴えてきた共和党の議員も、法案に肯定感を示し始めた! せっかくのチャンスを逃がすまいと、両党の議員が現実的な立法過程に乗りだした。

「現実的」とは、法律の内容自体をかなり限定的にものに変えたこと。実は今回の法律が成立しただけでは、同性愛者はどこの州でも結婚できるようになるわけではない。もし2015年の判決が無効とされた場合、同姓婚ができない州もあった2015年以前の状態に再び戻るだけだ。

しかし今回の法律のおかげで、同性婚ができない州があっても、認めない州はなくなることになる。これが大きい! つまり、同性カップルの婚姻届を受理してくれない州はあっても、他の州で結婚した場合は、その婚姻関係をどの州も認めざるを得なくなるのだ。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story