コラム

現代アートの動機(2):制度への言及と異議/アクチュアリティと政治

2017年03月09日(木)15時05分
現代アートの動機(2):制度への言及と異議/アクチュアリティと政治

Chim↑Pom, U.S.A. Visitor Center,2016, Photo: Osamu Matsuda, (C)Chim↑Pom, Courtesy of the artist and MUJIN-TO Production

<現代アートの作家が抱く創作の動機はどういったものなのか。ここでは「制度への言及と異議」「アクチュアリティと政治」について考えよう>

【前回の記事】現代アートの動機:新しい視覚・感覚の追求/メディウムの探究

「メディウムの探究」の別の例として、アントニー・ゴームリーの彫刻、イリヤ&エミリア・カバコフのインスタレーション、ティノ・セーガルのパフォーマンスなどを挙げたいところだが、先を急ごう。

次は「制度への言及と異議」を取り上げる。ここで言う「制度」とはもちろんアート制度のこと。したがって前回説明した「新しい視覚・感覚の追求」と「メディウムの探究」の双方にかなりの部分重なり合う。「追求」は制度に新たな視覚・感覚の追加を要請する。「探究」はメディウムの、以前には存在しなかった可能性を問う。どちらも現状の改革を求めるわけであり、すなわち「異議」の申し立てにほかならない。不変不動を装うシステムに「これだってアートだろう?」と疑義を申し立て、アートの定義の書き換え、もしくはアートの守備範囲の拡大を迫ってそれを認めさせようとする。

アート史上、この動機において最も衝撃的で、最も影響力があったのは、何度でも繰り返すがマルセル・デュシャンの「泉」である。デュシャン以降(正確にはその意義がアート界において広く認識された20世紀後半以降)、巨人の影響力を免れている現代アーティストはひとりもいないし、巨人を超える存在もいまだに出現していない。「泉」には視覚的インパクトもあったが、何よりも「アートはこんなにも自由だ」という強烈なメッセージを放っていた。長く続くアート革命の、最初にして最大の英雄だと言えるだろう。

【参考記事】デュシャンの「便器」の果てに

「言及」は「参照」や「引用」にほぼ等しく、先行作品へのオマージュや批判を作品内に組み込む行為を指す。デュシャンが「L.H.O.O.Q」で絵葉書の「モナリザ」に髭を描き加え、タイトルに卑猥な意味を込めて以来(「L.H.O.O.Q」をフランス語で読み下すと「エラショーオーキュー」となり、「彼女の尻は熱い」という卑語とほぼ同音になる)、多くの現代アーティストが様々な美術史・アート史上の名作に、強迫観念的に言及してきた。アート史の節目となった1989年以降も、作家の姿勢に変わりはない。ジェフ・クーンズしかり、デミアン・ハーストしかり、村上隆しかり、会田誠しかり......。

作家のみならず、アートワールド全体がこの姿勢を全面的に支持し、歓迎している。これも繰り返しになるが、僕もプロフェッショナルな作家やアーティストを志す者がこの姿勢を貫くのは当然であり、アート史を学ぶのは義務であるとさえ思う。小説家や詩人が文学史を、作曲家や演奏家が音楽史を、映画監督が映画史を、劇作家や演出家が演劇史を、建築家が建築史を学ばなければならないのと同じことだ。問題は、アマチュアの鑑賞者がどこまでアート史をわきまえておくべきかだが、これについては連載の最後に論じよう。

プロフィール

小崎哲哉

1955年、東京生まれ。ウェブマガジン『REALTOKYO』『REALKYOTO』発行人兼編集長。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。2002年、20世紀に人類が犯した愚行を集めた写真集『百年の愚行』を刊行し、03年には和英バイリンガルの現代アート雑誌『ART iT』を創刊。13年にはあいちトリエンナーレ2013のパフォーミングアーツ統括プロデューサーを担当し、14年に『続・百年の愚行』を執筆・編集した。

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