コラム

現代アートの動機(1):新しい視覚・感覚の追求/メディウムの探究

2017年02月14日(火)12時10分
現代アートの動機(1):新しい視覚・感覚の追求/メディウムの探究

ゲルハルト・リヒター と88年の作品「Betty」 Arnd Wiegmann-REUTERS

<現代アートの作家が抱く創作の動機はどういったものなのか。まず「新しい視覚・感覚の追求」、「メディウムの探究」について考えよう>

現代アートの作家が抱く創作の動機は、大別して7種ある。最初に断っておくけれど、もちろんこれは図式的な分類であり、実際の作品には数種類が混在していることが多い。ピザにたとえれば、7種類のトッピングがあって、1種載せから全部載せまでの選択があるように。音楽にたとえれば、ソロから7重奏まで1種から7種の楽器によるあらゆる順列組み合わせの編成があり、しかも演奏者の出番(配分)が量的に異なるように。それが前提だと了解していただいた上で始めよう。

最初は「新しい視覚・感覚の追求」。感覚的なインパクトの追求である。現代アートのみならず、美術史の大部分はこれによって前進してきた。ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」の完璧な構図。ミケランジェロ「システィーナ礼拝堂天井画」の圧倒的な大画面。カラヴァッジョの光と闇。フェルメールのスーパーリアリズム......。印象派が誕生したのも、セザンヌがリンゴをばらばらの視点から描いたのも、ピカソやブラックがキュビスムに取り組んだのも、デュシャンが便器を作品化したのも、まずは何よりも「ほかの誰もやっていないこと」「いまだかつて存在したことのないもの」「観る者に衝撃を与えるもの」を自らの手で生み出そうという強い欲望があってのことだった。伝統の保存と継続が最重要視される分野もあるけれど、文学、音楽、映画、演劇、ダンス、建築、デザインなど、他の多くの表現領域においても、これはかなりの程度同様であるだろう。

20世紀に入ってからは、キュビスムや「泉」以外にも、それまで誰も眼にしたことがなかったものが相次いで登場する。アンリ・マティスの鮮烈な色彩。カジミール・マレーヴィチの真っ黒な画面。ワシリー・カンディンスキーの音楽を感じさせる抽象画。ピカソがキュビスム絵画とともに始めたコラージュ。赤・青・黄のみで構成されたピエト・モンドリアンの抽象画。夢を描いたかのようなルネ・マグリットやサルバドール・ダリの「シュールな」絵画。工業製品として関税を課されたこともあるコンスタンティン・ブランクーシの抽象彫刻。ドリッピングなどの手法によるジャクソン・ポロックのオーヴァーオール絵画。ルーチョ・フォンタナによって切り裂かれたキャンバス。イヴ・クラインのブルーの顔料を塗った魚拓ならぬ「人拓」。M・C・エッシャーの不可能図形。ドナルド・ジャッドの工業製品のような立体。リップスティック、洗濯バサミ、チェリーを載せたスプーンなどを巨大化させたクレス・オルデンバーグのパブリックアート彫刻などなど。挙げ出したら切りがないから、このあたりでやめておく。

プロフィール

小崎哲哉

1955年、東京生まれ。ウェブマガジン『REALTOKYO』『REALKYOTO』発行人兼編集長。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。2002年、20世紀に人類が犯した愚行を集めた写真集『百年の愚行』を刊行し、03年には和英バイリンガルの現代アート雑誌『ART iT』を創刊。13年にはあいちトリエンナーレ2013のパフォーミングアーツ統括プロデューサーを担当し、14年に『続・百年の愚行』を執筆・編集した。

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