最新記事
シリーズ日本再発見

食文化史研究家が語る、未だ知られざる和食の利点

2017年10月23日(月)12時06分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

DavorLovincic-iStock.

<『昭和のシンプル食生活』を上梓した食文化史研究家の永山久夫氏(85歳)。健康と長寿をもたらす和食について、話を聞いた>

永山久夫氏は、現在85歳。和食を知り尽くし、「昭和の食生活」を自ら実践してきた専門家だ。福島県に生まれ、漫画家を目指して上京、結婚。一児を授かるが、妻に先立たれてしまう。以来、貧乏暮らしをしながら仕事と子育てを続けた永山氏は、40代も半ばになってから食文化史研究家として活躍するようになった。

このたび、貧しかった時代を支えた「食の知恵」を初公開し、『ひと月1万円!体にやさしい 昭和のシンプル食生活』(CCCメディアハウス)にまとめた永山氏。キャベツや納豆、甘酒、高野豆腐といった10の食材と、「体とお財布にやさしい」という121の実用的なレシピを紹介し、話題を呼んでいる。

和食は体にいい。だがそれだけなく、世界から注目を集める日本の"ソフトパワー"でもある。和食の可能性や「食の知恵」について、永山氏に聞いた。

――2013年には和食がユネスコの世界無形文化遺産に登録され、いま世界中で和食人気が高まっている。

和食が世界無形文化遺産に指定されたことは、和食にとって素晴らしいことでした。これによって世界の和食ブームは、次のステップに進み、さらに評価が高まるでしょう。和食はおいしくて美しい、という満足の領域を越えて、長寿食でもあるという認識が高まっていくのはまちがいありません。

和食を食べている日本人は、世界でもトップクラスの長寿民族ですから、健康と長寿をもたらしてくれる食べ物として、ますます人気が高まるはずです。会席料理的な楽しみ方も見直されるでしょう。美味なる料理を楽しみ、最後にご飯と汁でシメる、という糖質制限にも役立つ食べ方。糖尿病の予防にもなります。

世界中の人が和食のよさを知ってくれた時、和食の第二期の黄金時代となり、「日本の時代」が訪れると信じています。ただ、そのためには正しい和食の普及が大事ですから、政府をはじめ私たち民間人が地道なPRを続けることです。

――翻って日本人の食生活についてはどうか。現代の日本人は、長寿食である和食という文化遺産を生かせているだろうか。

現代人の食生活の問題点に、糖質や脂質のとり過ぎ、そして肥満があります。日本人の平均寿命が延び悩んでいるのは、不健康な食べ方によって"健康ロス"を引き起こしている人が増えているからです。

テレビや週刊誌は日常的に健康をテーマにしています。関心が高まっているのです。しかし、「明日の健康」を保証してくれるのは「今日の食」であり、人の体はその人が食べたものによってできていることを知ってもらいたい。

自分の健康は自分でしかつくれません。昔は生きることが大変で、食事といえばお腹を一杯にすることでしたが、今は豊かで便利になりました。ですから、もう少し毎日の食に注意をはらい、体にいいもの、いい食べ方をして欲しいと思います。もう一度、和食の素晴らしさに気づいてください。

――著書では、単なる和食ではなく、その中でも特に「昭和の食生活」を薦めているが、それはなぜか。

ひと言で「和食」といっても、1960~70年代、日本人が家庭で食べていた食事が理想的だと思います。渥美清主演の映画『男はつらいよ』がシリーズで上演されていた時代の「昭和の食」が、栄養バランスがしっかりとれていました。ちなみに、第1作が公開されたのは昭和44(1969)年です。

この時代の昭和は、昔からのよき日本食の伝統が守られ、そこへ肉料理や乳製品文化が加わり、動物性タンパク質もとれていた時代でした。魚や野菜、海草の消費量も今より多く、理想的な食事だったのです。日本人が食べてきた野菜・魚介類と、洋風の肉類・乳製品がほどよく混ざり合った食事でした。

たとえば、きんぴらゴボウ、カボチャの煮物、焼き魚、豚肉と野菜一杯の豚汁、粕漬けの漬物など。そして、隣近所でおかずの分け合いがあり、貧困も苦にならない希望があり、心のゆとりと、助け合いのやさしさがあった時代でした。

【参考記事】甘酒......心の傷まで治してくれる、飲む点滴・甘酒

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NZ中銀、自己資本規制見直しの必要性否定 競争当局

ワールド

ガザ戦闘、人道状況に「著しい悪影響」 米国務省が人

ワールド

ロシアがウクライナに無人機攻撃、南部オデーサで7人

ビジネス

中国の研究機関、エヌビディアの先端半導体調達 米の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中