コラム

カシミール紛争、解決のカギは日本?

2012年03月12日(月)03時12分

 インドの頭痛はおさまることがないだろう。

 3月9日、パキスタン軍の諜報機関であるISI(軍統合情報局)のアーマド・シャー・パシャ長官に代わり、第5軍団司令官のザヒール・ウル・イスラム中将が、新長官に任命された。パシャは引退し、イスラムは18日に就任する予定だ。

 パキスタンでは軍が絶大な力を持っており、ISIも国内での影響力は大きい。アフガニスタンでの対テロ戦争に多大なる影響をもつパキスタンで力のある諜報機関の人事は世界的にも注目された。

 そんな中でもとりわけ、このニュースに対して敏感に反応した国がある。インドだ。

 パキスタンとインドは過去に3度、戦火を交えており、そのうちの2度は、両国が領有権を主張するカシミール問題に起因した。カシミール紛争は、現在も解決されることがないまま、世界から忘れ去られている。

 背景を簡単に説明すると、いわゆる「カシミール」には、インド側、パキスタン側の2つがある。

 第一次印パ戦争で分断されたカシミール地方だが、そのうちの70%ほどはインド側が実行支配し、ジャム・カシミール州となった。残りはパキスタンに入り、アザド・カシミール州となった。ちなみに「アザド」とはパキスタンで話されるウルドゥー語で「自由」という意味。要するに、インドに支配されていないカシミール、という意味だ。

 これまで、パキスタンはイスラム武装組織を使い、イスラム教徒が多数派であるインドのジャム・カシミール州に駐留するインド軍などに武力攻撃を加えてきた。住民の多くがインドからの分離を望むジャム・カシミール州を混乱させて、パキスタンに併合しようとしてきた。これが今も続くカシミール紛争だ。

 先日、パキスタンのアザド・カシミール州で州首相を努めたバリスター・スルタン・マフムード・チョードリーが来日し、カシミール紛争の解決を訴えた。チョードリーは、「印パともに核兵器保有国だ。日本は核兵器がいかに危険であるか分かっている」と言う。カシミール問題で、長年のライバルで核保有国のインドとパキスタンが再び戦争にでも突入すれば、最悪のシナリオも考えられる。「カシミール紛争解決のために、日本政府にも重要な役割を担ってもらいたい」と、チョードリーは訴えた。

Choudhry.jpg   来日して懇親会に出席したチョードリー元州首相(Photo: Mohammad Zubair)

 インドはISI長官の人事で、パキスタンが今後のカシミール紛争をどう扱うのか、注目していた。だが、インドのヒンドゥスタン・タイムズ紙はインドの情報当局者のコメントを引用し、パキスタンを支配しているのは軍とISIだが、ISIの新長官はジャム・カシミール州への「テロ攻撃」をやめるつもりは毛頭ないと報じた。

 さらに08年にインド・ムンバイで発生したムンバイ同時多発テロには、ISIが関与したと言われているが、「当時のISI副長官のイスラム中将が長官になる」と、同紙は皮肉っている。

 結局、カシミール紛争で今も印パの狭間で苦しむカシミールの人々が受ける苦しみはまだ消えないだろう。もっとも、それが消えたとしても、インドの頭痛がおさまることはないだろうが。

――編集部・山田敏弘

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。編集コンセプトは、世界と日本をさまざまな視点から見つめる「複眼思考」。編集部ブログでは国際情勢や世界経済、海外エンターテインメントの話題を中心に、ネットの速報記事や新聞・テレビではつかみづらいニュースの意味、解説、分析、オピニオンなどを毎日お届けしていきます。

ニュース速報

ビジネス

消費増税延期なら信を問うのが筋=麻生財務相

ビジネス

安倍首相が消費増税の2年半延期を政府・与党幹部に伝

ワールド

サンダース氏と討論の可能性、トランプ氏一転否定

ビジネス

米国株式市場は上昇、「利上げできるほど景気改善」と

MAGAZINE

特集:アメリカとヒロシマ

2016-5・24号(5/31発売)

オバマが現職の米大統領として初めて広島を訪れる──。被爆地に注目が集まる今だからこそ耳を傾けるべき声がある。

人気ランキング (ジャンル別)

  • 最新記事
  • コラム
  • ニュース速報
  1. 1

    「オバマ大統領27日広島訪問、原爆投下謝罪せず」ホワイトハウスが発表

    伊勢志摩サミットで来日時に現職の米大統領として…

  2. 2

    自撮りヌードでイランを挑発するキム・カーダシアン

  3. 3

    「国家崩壊」寸前、ベネズエラ国民を苦しめる社会主義の失敗

  4. 4

    サンダースが敗北を認めない民主党の異常事態

  5. 5

    荒れる米大統領選の意外な「本命」はオバマ

    共和党の醜い舌戦のおかげで人気回復のオバマがい…

  6. 6

    歴史を反省せずに50年、習近平の文化大革命が始まった

  7. 7

    【動画】ドローンを使ったマグロの一本釣りが話題に

  8. 8

    行動経済学はマーケティングの「万能酸」になる

  9. 9

    米大統領選挙、「クリントンなら安心」の落とし穴

    アウトサイダー待望論が吹き荒れるなか消去法で当…

  10. 10

    北朝鮮がアフリカに犯罪者数百人を「輸出」疑惑

  1. 1

    オバマ大統領の広島訪問が、直前まで発表できない理由

    ジョン・ケリー米国務長官は今月11日、G7外…

  2. 2

    安倍首相の真珠湾献花、ベストのタイミングはいつか?

    <オバマ米大統領の広島訪問に対応する形で、安倍…

  3. 3

    中国が文革の悪夢を葬り去れない理由

    今年で文化大革命が始まって50年だが、中国政府は…

  4. 4

    伊勢志摩サミット、日本文化の真髄として伊勢神宮の紹介を

    首相夫人の安倍昭恵氏が先月末に三重県を訪れ、…

  5. 5

    「ケリー広島献花」を受け止められなかったアメリカ

    今週11日、G7外相会議で広島を訪れたアメリ…

  6. 6

    現実味を帯びてきた、大統領選「ヒラリー対トランプ」の最悪シナリオ

    共和党に2カ月遅れて、民主党もようやく今週1…

  7. 7

    パナマ文書問題、日本の資産家は本当に税金逃れをしているのか?

    〔ここに注目〕日本の企業活動、税法の特徴…

  8. 8

    出版不況でもたくましいインディーズ出版社の生き残り術

    日本と同様、出版不況に直面するアメリカの出版業界…

  9. 9

    AI時代到来「それでも仕事はなくならない」...んなわけねーだろ

    「AIやロボットが人間の仕事を奪うようになる」とい…

  10. 10

    ジャーナリズムと批評(2):絶滅危惧種としての理論家と運動

    映画化もされた小説『虚栄の篝火』や、ノンフィクシ…

  1. 1

    米テキサス州、地震急増の原因はシェール採掘か=研究

    米テキサス大学オースティン校の地質学者クリフ…

  2. 2

    中国戦闘機2機が米機に異常接近、南シナ海上空で=米国防総省

    米国防総省は、南シナ海上空で17日、中国軍の…

  3. 3

    パリ発のエジプト航空機が消息絶つ、海に墜落か 66人搭乗

    エジプト航空の乗員・乗客66人を乗せたパリ発…

  4. 4

    行儀悪い売り方やめた、「白物家電の二の舞い」懸念=スズキ会長

    スズキの鈴木修会長は10日に開いた決算会見で…

  5. 5

    米テスラ、株式発行などで2200億円調達へ 「モデル3」開発加速で

    米電気自動車(EV)メーカーのテスラ・モータ…

  6. 6

    訂正:三菱自の燃費不正は経営陣の圧力 国交省、スズキには再報告要請

    会見内容などを追加しました[東京 18日 ロイ…

  7. 7

    訂正:三菱自、相川社長が6月引責辞任 益子会長は新体制発足まで続投

    三菱自動車は18日、相川哲郎社長と中尾龍吾副…

  8. 8

    ECB追加措置の検討は秋に、必要なら新規買入可能=リトアニア中銀総裁

    リトアニア中央銀行のバシリアウスカス総裁は、…

  9. 9

    焦点:南シナ海仲裁裁判に台湾が横やり、裁定遅延の恐れも

    台湾の当局に近い団体が、南シナ海の領有権をめ…

  10. 10

    インタビュー:トランプ氏、核阻止へ金正恩氏との会談に前向き

    米大統領選で共和党候補指名を確実にしたドナル…

Newsweek特別試写会2016初夏「疑惑のチャンピオン」
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

0歳からの教育 育児編

絶賛発売中!

コラム

辣椒(ラージャオ、王立銘)

中国が文革の悪夢を葬り去れない理由

パックン(パトリック・ハーラン)

破壊王! トランプの「政治テロ」が促すア