コラム

サイバーテロに加担したオバマ政権

2011年01月23日(日)15時06分

 イランの核施設がコンピューターウイルスによるサイバー攻撃を受けていることは、当サイトでも伝えている通りだが、どうやらそのウイルスを開発したのはアメリカとイスラエルらしいと、15日付の米ニューヨークタイムズの記事が報じている。

 イラン中部ナタンズの核施設では、核兵器の製造に必要な濃縮ウランの精製作業が行われている。2009年頃からこの施設のコンピューターを「スタックスネット」と呼ばれるウイルスが襲い、施設の遠心分離機の5分の1が停止に追い込まれ、イランの核開発は大幅に遅れているという。

 昨年11月、イランのアハマディネジャド大統領は、サイバー攻撃を初めて公式に認め、「設備に少々の問題が生じた」と語った。しかしワシントンの民間研究所の報告書によれば、その被害は甚大で、合計984個の機械が作動しなくなったという。

 イラン当局は当初からイスラエルとアメリカの関与を疑った。今回のニューヨークタイムズの記事は裏付けとなる状況証拠や関係者の証言を集め、両国政府がウイルスを開発したと断定している。

 ナタンズの核施設には、遠心分離機の作業を管理するシステムとしてドイツ・シーメンス社製のコンピューターが使われている。2008年の初頭、シーメンスはアイダホ州にある米エネルギー省傘下の国立研究所と共同で、産業用機械を制御するコンピューターシステムの危険性を探るプロジェクトに参加した。シーメンスとしては、世界に販売した自社製品の安全性を確保するためのプロジェクトだったが、この中で研究所がシステムの脆弱性を手に入れたという。

 また、イランでは「P1」と呼ばれる、パキスタンのカーン博士が開発した遠心分離機が使われているが、アメリカとイスラエルが同型の機械を入手して、ウイルス攻撃の効果があるか実験を重ねていたことも関係者の証言でわかった。

 記事によれば、サイバー攻撃はブッシュ政権末期に米政府が承認し、その後オバマに政権が移っても引き続き促進されたという。イスラエルは、1981年にイラクの、2007年にシリアの核関連施設を爆撃して核開発を阻止した。だがイランに対しては、国際社会の非難や直接的な軍事的対立を避けるために、サイバー攻撃の準備を進めていた。

 もちろんアメリカ、イスラエルの両政府とも、ウイルスを開発したことは公式に認めていない。「サイバー攻撃」と言えば表現は良いが、やっていることはテロと変わらない。例えば中国やロシアが同じことをすれば、当然のごとく国際社会から最大限の非難を浴びることになる。アメリカが関与すれば「テロ」ではなくなる、とでもいうのだろうか。

――編集部・知久敏之

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story