コラム

止まない韓国芸能人の自殺

2010年07月04日(日)22時43分

 パク・ヨンハの自殺の報は、連日のW杯観戦で寝ぼけた頭を一気に覚まさせた。ショック!ではあったが、正直に言うと、「またか・・・・」という気持ちが強かった。

 初めてこんな衝撃を味わったのは、2005年、女優イ・ウンジュ(24)が亡くなった時。やはり自宅で首を吊っての自殺だった。当時「スカーレットレター」での露出演技が話題で、その後遺症に悩まされていたと大々的に報道されていた。いくら露出が激しいとはいえ、そこは女優。それが原因で、命を絶つとは信じがたかった。残されたノートからは、家族の経済的な問題、人間関係など、精神的にダメージを受けていた事が伺われた。精神科の治療を受け始めたばかりだった。
 
 2007年の1月には、歌手ユニ(25)がやはり自宅で首を吊って自殺。新しいアルバムの発売を数日後に控えての出来事。インターネットによる悪質なカキコミに大きく傷ついていたという彼女は、日頃からうつ病を患っていたことを母親が明かしている。 

 その翌2月には女優チョン・ダビン(26)が、恋人の家で首を吊った状態で発見された。太陽のように明るい印象の彼女からは、自殺という言葉は想像しがたかった。人気を得た後、整形疑惑に苦しめられ、2005年以降は活動休止の状態だった。仕事の不振に悩まされていたという。

 2008年9月、タレント、アン・ジェファン(35)が車で練炭自殺。前年の秋にコメディアンのチョン・ソニと結婚したばかりで、夫婦でCM出演などもして幸せそうだった。しかもおもろい夫婦だった。が、事業の失敗などで借金で苦しんだ末の自殺とされた。

 そして、そのわずか20日後、韓国中に衝撃が走った(に違いない)。国民的トップ女優チェ・ジンシル(39)の自殺。離婚後復帰のドラマは当たりまくり年末の演技賞も受賞。2人の子供との明るい姿を自身のHPに上げるなど、順調な暮らしぶりをアピールしていた。しかし、「貸金業をしていて、アン・ジェファンにも金を貸し、彼を死へ追いやった」とのデマを流され苦しんでいた。何よりも大切としていた子供たちを残し、突然自ら命を絶った。

 悲劇は続く。その1年半後(今年3月)、チェ・ジンシルの実弟チェ・ジニョン(39)もまた自ら命を絶った。姉の念願だった大学へ進学、姉の代わりにボランティアへも参加。2人の遺児は、自分が親代わりとなり責任をもって育ててゆくと番組で話した直後だった。姉への思慕が強すぎたとする自殺原因は、いくら家族の絆が強い韓国とはいえ、私にはよく理解できなかった。思いが強いなら、なぜ再び残されてしまう子供達のことを思わないのだろう・・・。

 彼らの自殺の原因は、大部分がうつ病とされている。

 韓国芸能人の、ストレスを受ける場が多いのは確か。その大きな要因が、インターネットだ。新しいドラマが始まれば、毎週の視聴率がネットに流れ(営業の成績発表をされるようなものだ)、番組の掲示板には視聴者の感想が書き込まれる。いい事ばかりとは限らない。悪質なカキコミは、大きな問題となっている。ある女優は、毎週テストを受けてるようだと言っていた。下手な演技をすれば突かれ、一気に批判で溢れかえる。人気があろうとなかろうと関係なし。下手に発言も出来ない。ふと漏らした失言が批判の的となり、活動休止に追い込まれたタレントもいる。今回のパク・ヨンハの死に対しても、すでに「よく死んだ」、「自殺は贅沢」などの文がコミュニティーサイトに掲載されているという。故人くらい、安らかに眠らせてあげて下さい。

 新たな活動を控えての自殺も多い。前出のユニ、チョン・ダビン、ジンシル姉弟もまた、次回作が決まっている状態だった。パク・ヨンハもしかり。作品に対する期待感以上に、その反応への不安は、想像を絶するのかもしれない。

 また彼らの多くが、母子家庭の"実質的な家長"であった事を考えると、そこに家長という重責が加わった時、不安を吐き出すことも出来ず、やっとのことで繋がっていた最後の糸が切れてしまうのかも。

 ご冥福をお祈りします。

――編集部・川崎寿子

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州委、中国のセキュリティー機器企業を調査 不正補

ビジネス

企業向けサービス価格、3月は前年比2.3%上昇 伸

ビジネス

TikTok、簡易版のリスク評価報告書を欧州委に提

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米株高を好感 東京エレク
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story