コラム

ウクライナ侵攻1年でみえた西側の課題──価値観「過剰」外交は改められるか

2023年02月28日(火)17時15分

南アフリカはなぜ参加したか

ウクライナ侵攻をきっかけに中ロ両国はそれまで以上に軍事協力を深めており、昨年は9月、11月、12月と立て続けに合同演習を行った。

それでは、中国はともかく南アフリカはなぜこの時期にロシアと合同軍事演習に踏み切ったのか。そこにはいくつもの理由がある。主なものだけあげると、

・南アフリカは中国やロシアの他、ブラジル、インドとともにBRICSのメンバーである。

・南アフリカにとって中国は最大の貿易相手国である(2021年段階で輸出入全体の約15%)。

・現在の南アフリカ政府の中心を占める政治家の多くはかつて、1994年まで続いた白人支配(アパルトヘイト体制)に抵抗した経験をもつが、これを主に支援したのは当時のソ連など東側で、西側は1970年代まで白人支配をむしろ黙認していた。

こうした背景から、南アフリカは昨年3月1日に国連総会で行われた、ウクライナ侵攻をめぐるロシア非難決議に賛成しなかった。

南アフリカは「反欧米」か

だからといって、南アフリカを「反欧米」と決めつけるのは短絡的だろう。例えば、

・白人支配崩壊後の南アフリカでは言論の自由や普通選挙が概ね定着しており、世界各国の「自由度」を測定するフリーダム・ハウスの評価でも「自由な国」と評価される(だから中ロとの合同演習への抗議デモも認められる)。

・南アフリカはこれまでにアメリカなど欧米各国とも合同軍事演習を行っている。

・この国のラマポーザ大統領は昨年6月、ドイツで開催されたG7サミットにゲストとして参加した(当然中ロからの出席者はいない)。

要するに南アフリカは中立、独立への志向が強いのであって、「反欧米」や「親欧米」といった言葉でくくることはできない。

リスク分散は悪か

「日和見だ」という批判もあるかもしれない。

しかし、ビジネスでも一つの取引先に頼りすぎることがリスクになるのと同じで、世界全体が流動化するなかでリスク分散を図ることは、良し悪しの問題ではなく、いわば当然の成り行きだ。

世界全体に占める先進国のGDPの割合は、かつて8割を超えていたが、現在では6割程度にまで低下している。とりわけ2008年のリーマンショック後、これが加速してきた。

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さらに、コロナ感染拡大後、西側が国内優先の対応に終始するなか、中ロはむしろ外交的な目的から途上国向けの医療支援を加速させた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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