コラム

早くも破綻したトラス英首相の「富裕層のための減税」政策は、日本経済の近未来像か

2022年09月28日(水)12時01分

「トリクルダウン経済学は上手く行かない。金持ちをより金持ちにしても英国が良くなるわけではない。本当の問題は低賃金で不安定な仕事をあまりにも多く作りすぎていることだ」

「価格上昇で莫大な利益を得ているエネルギー大手BPのトップは、エネルギー危機では同社は『キャッシュマシン』になると言ったが、そのお金は労働者から吸い上げられている。私は安普請の住宅で育った。だからインフレの感覚はよく覚えている。請求書が払えずに電話が切られた。生活費を稼ぐのがいかに大変だったか、簡単なことではなかった」

「しかし『一生懸命働けば何でも達成できる、英国で公平な機会を得ることができる』という不文律があった。今は一生懸命に働いても、家族に安心感を与えることすらできない。子供たちが自分たちより良い人生を送れないことを心配している家族の姿は英国という国の現実を物語っている」とスターマー氏は言う。

公有の再生エネルギー会社を設立

スターマー氏は「2030年までに100%クリーンな電力を供給する」と宣言した。「陸上風力発電を2倍に、太陽光発電を3倍に、洋上風力を4倍にし、潮力、水素、原子力に投資する。100万人以上の新規雇用を創出できる」。公的資金で再生可能エネルギー会社「グレート・ブリティッシュ・エナジー」を設立し、公有化する。利益は再投資に回される。

220928kmr_tbe02.jpg

スターマー党首とビクトリア夫人(同)

「クリーンな電力の機会を活用する新会社だ。雇用や成長を生み出し、ウラジーミル・プーチン露大統領のような暴君へのエネルギー依存を解消する」と力を込めた。フランスで完全に国有化され、英国で1万人以上の雇用を生み出す仏電力会社EDFがモデルだという。脱炭素経済への移行で、より公正で公平な社会を目指す。

スターマー氏を支えるレイチェル・リーブズ影の財務相も26日「私たちは国家緊急事態に直面している。エネルギー価格は上昇し、食料の値段も上がっている。賃金はそれに追いつかない。富裕層減税、バンカーのボーナス引き上げで毎年500億ポンド以上の国債が積み上げられる。すべてのコストを借金に転嫁する無謀な決断のせいだ」とトラス氏を攻撃する。

すでにインフレが進み、金利が上昇する中、トラス政権は1972年以降どの予算よりも多くの借金を一挙に積み上げたとリーブズ氏は指摘する。「市場からのメッセージは明確だ。輸入コストが上昇し、物価が上昇する。政府の借入れコストは上昇し、国債の利子を支払うために多くの税金が使われる」と懸念を示す。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story