コラム

アメリカの世紀は終わった「強いフランス、強い欧州」目指すマクロン仏大統領の中国詣で 人権は後回し

2018年01月10日(水)16時21分

訪中したフランスのマクロン大統領と中国の習近平国家主席 Ludovic Marin-REUTERS

[ロンドン発]フランスのエマニュエル・マクロン大統領は1月8~10日の日程で、就任後初めて国賓として中国を訪問した。マクロンは北京で習近平国家主席と会談、300億ユーロに達したフランスの対中貿易赤字を解消するため中国側の市場開放を迫るとともに、北朝鮮の核・ミサイル問題、地球温暖化、アフリカでのテロ対策について協議した。

中国機関紙の環球時報や新華社通信の国際版によると、8日の会見で習近平が「毛沢東主席とシャルル・ド・ゴール仏大統領は1964年に中仏両国の外交関係を強化するため歴史的な決断を行った」と述べると、マクロンはアジアと欧州を結ぶ習近平のインフラ経済圏構想「一帯一路」について「積極的な役割を果たしたい」と応じた。

9日の会談では、習近平は「中仏両国はそれぞれの核心的利益に耳を傾け、2国間の絆を強めるため違いに適切に対処すべきだ」と釘を刺した。欧州で唯一、アメリカが主導する南シナ海での「航行の自由」作戦に参加するフランスに対して、中国の核心的利益である南シナ海や東シナ海には口出しするなと言ったに等しい。

親衛隊の馬を習にプレゼント

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチはノーベル平和賞受賞者、故・劉暁波氏の妻、劉霞さん(軟禁中)の即時解放を中国側に促すようマクロンに求めたが、マクロンがどこまで踏み込んだのかは分からない。金融危機、債務危機で「金欠」になった欧州は中国の巨大マネーを必要としている。失業率が10%前後で高止まりしたままのフランス経済を立て直すためにはなおさらだ。

マクロンは親衛隊の馬1頭を習近平にプレゼントした。ブリジット夫人が中国から借り受けているパンダの赤ちゃんの名付け親になったことに対する返礼とは言え、「朝貢外交」と揶揄(やゆ)されても仕方あるまい。フランスを睥睨(へいげい)する中国は仮にマクロンが人権について説教しても耳を貸さないだろう。

欧州連合(EU)から離脱するイギリスのテリーザ・メイ首相は対中関係を強化するため訪中を希望している。当初、昨年秋に予定されていたが、今月末に先延ばしされたと報じられた。マクロンが新年のトップバッターとして先に訪中を果たした。待たされ続けるダウニング街10番地(英首相官邸)は気が気でないだろう。

中国は欧州のカウンターパートとして「経済」はドイツ、「外交・安保」はフランスを選んだからだ。中国マネーを国際金融都市ロンドンに呼び込みたいイギリスも中国詣でに躍起となっている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ中銀、経済成長率加速を予想 不透明感にも言及=

ワールド

共和予備選、撤退のヘイリー氏が2割得票 ペンシルベ

ビジネス

国内債は超長期中心に数千億円規模で投資、残高は減少

ワールド

米上院、TikTok禁止法案を可決 大統領「24日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story