コラム

3カ月前にランサムウェア「Wannacry」から世界を救ったヒーローがサイバー犯罪で逮捕、仲間は無実を主張

2017年08月04日(金)19時56分

マーカスは自らのブログ「マルウェアテク」で今年5月12日、世界を混乱に陥れたWannaCryの攻撃をたまたま阻止した経緯を綴っている。WannaCryに乗っ取られたコンピューターは300ドルの身代金を要求する脅迫状が表示され、動かなくなっていた。

<午前10時、ベッドから抜け出した。オンラインバンクを標的にするマルウェアの動向をチェックした。ランサムウェアに攻撃されたという2~3の投稿があっただけで、いつもと変わらなかった。友人と昼食を取るため自宅を出た>

<午後2時半に帰宅すると、とんでもない事態になっていた。インターネット上の脅威を共有するプラットフォームはNHSを混乱に陥れたランサムウェアに関する投稿であふれ返っていた。友人の協力を得て、ランサムウェアのサンプルを採取した>

<ランサムウェアは登録されていないドメインに問い合わせするようプログラムされていた。ランサムウェアの動きを追跡しやすいようにドメインを登録した。他のアナリストにサンプルを送ろうとした時、ランサムウェアがすでに無効化されていることに気づいた。ドメインを登録したことがランサムウェアの拡散にストップをかけたのだ>

支払われた身代金13万ドル

<ドメインにつながらない場合、ランサムウェアはコンピューターを乗っ取り、つながると拡散を止める「キル・スイッチ」が入る仕組みになっていた>

ヒーローになったマーカスにはサイバーセキュリティー団体から1万ドルの報奨金が与えられ、彼は慈善団体に全額を寄付した。一方、Wannacryの被害者は計13万ドル以上の身代金を支払ったという。

FBIの責任者は「サイバー犯罪はFBIの最重要課題だ。国内外でパートナーと協力しながら正義を実現するよう努める。サイバー犯罪者は毎年、私たちの経済に数十億ドルの損失を与えている」と力説した。

しかし、マーカスをよく知るサイバーセキュリティーの仲間たちはツイッターで「マルウェアテク(マーカスのこと)に対する公訴事実は信じられない。私が知っているマーカスはそんなことをする男ではない。彼はマルウェアを阻止することに自分のキャリアを費やしてきた。マルウェアを作成するためではない」と彼の無実を主張している。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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