コラム

悲劇続きで沈滞ムードのイギリスに残る良心

2017年07月05日(水)17時00分

高層住宅火災の被災者を支援するボランティア活動 Neil Hall-REUTERS

<マンチェスターやロンドンのテロ、高層住宅の火災と、イギリスでは最悪な事態が次々と起きている。それでも人々の怒りや絶望より、ボランティアや寄付などの善意の方が目立っている>

ここのところ、イギリスでは最悪なことが次から次へと起こっているように見える。

ウェストミンスターでの襲撃事件はおぞましかったが、こうしたローテクのテロ攻撃はいつの日か起こることは避けられないと分かっていただけに、まだ何とか耐えることができた。この手のテロが起こるであろうことはずっと警告されていた。そうはいっても、死者の出るようなテロが起きることなく「かなりの時間」が過ぎたところで、この襲撃事件が発生した。

それに続いて、マンチェスターのコンサート会場で、子供や罪なき人々を狙った非道な大量殺人が発生してしまった。

それからさらに、ロンドン橋とバラマーケットでの襲撃事件が起こった。

メディアで絶え間なく報道される犠牲者の名前、突然命を絶たれた人々のプロフィール――それから、葬儀の様子。スコットランドの小さな島からマンチェスターのコンサートに来ていた女子生徒が犠牲になり、地元の街は喪失感に打ちのめされた。ウェストミンスター橋で暴走車に接触されテムズ川に落ちたルーマニア人建築家の女性は、それから2週間後に亡くなった。

事件の日、彼女にプロポーズするつもりだったという彼女の恋人の人生はめちゃめちゃになった。みんなが彼女の「奇跡のストーリー」を切望していたが、ついにかなわなかった。いくつもの悲しい物語が、こんなふうに絶え間なく語られている。

そして、書くことすら苦し過ぎる、公営高層住宅「グレンフェルタワー」の大火災のトラウマ。

それから、フィンズベリー・パーク地区のモスク近くで、イスラム教徒らの列に1台のワゴン車が故意に突っ込む事件が起こった。1人の男性が死亡した。

こうした一連の事件の最中に、昨年6月に銃撃され殺害された若き国会議員ジョー・コックスの1周忌が訪れ、1年前のおぞましいあの日の記憶を呼び覚ました。

【参考記事】ロンドン高層公営住宅火災で団結するロンドン市民 アデルなど著名人も

2011年のような暴動は起きず

こうしたことを長々と並べ立てるのは実に気が滅入ることだとは、言うまでもないだろう。ひどく極端な状況を味わっている時期には「国家的ムード」のようなものが漂うと僕は思うが、今はまさにそんな時期な気がする――それも、かなり後ろ向きなムードだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story