アングル:ウクライナ和平協議、忘れられたロシア政治犯の運命
写真はロシアのジャーナリスト、ドミトリー・ムラトフ氏。2022年9月、モスクワで撮影。REUTERS/Evgenia Novozhenina
Mark Trevelyan
[ロンドン 1日 ロイター] - ウクライナ和平を巡り、米国とロシアが協議を進める中、ノーベル平和賞受賞者でロシアのジャーナリスト、ドミトリー・ムラトフ氏は、予想される議題には肝心の要素が抜け落ちていると指摘する。
米国のウィットコフ特使とロシアのプーチン大統領は2日、ロシアとウクライナの国境や、ウクライナの安全に関する保証、凍結されたロシア資産の扱い、米ロの共同投資などを話し合う見通し。
ムラトフ氏が何よりも心配しているのは、ロシアで収監されている何百人もの政治犯の運命だ。彼らはロシアが2022年のウクライナ侵攻後に制定した検閲法に基づき、ロシア軍の「信用失墜」や「意図的な虚偽情報の流布」の罪に帰せられた。
こうした中で1日、ムラトフ氏を含めたノーベル賞受賞者16人がプーチン氏、トランプ米大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領、欧州連合(EU)宛の公開書簡で、和平案に政治犯の釈放もしくは交換を盛り込むよう訴えた。
ロシア当局から「外国の代理人」とのレッテルを貼られながら、なお国内で編集者として活動を続けるムラトフ氏は、ロイターのビデオ通話によるインタビューで「和平交渉では金や取引、レアアース(希土類)、国境が話題になっているが、人間についての話を聞いたことがあるだろうか。プーチン氏が何を考えているのかは知らない。私が承知しているのは、獄中で人々が死に瀕しており、助けを必要としていることだけだ」と語った。
<顔写真が物語る現実>
ムラトフ氏はインタビュー中、アレクセイ・ゴリノフ氏やチジェーニャ・ベルコビチ氏、アンドレイ・シャバノフ氏ら有名なロシアの反体制派の収監前と現在の顔写真を掲げ、獄中での如実な老け方と健康がむしばまれている様子を示した。
「これらの人たちがどうなっているかを見せたい。多くが生き残れないと誰もが疑いなく思えるように。国際社会すなわちゼレンスキー氏やプーチン氏、(米大統領の)トランプ氏、EUが今、彼らの運命を決めなければ、死んでしまう。交渉の場にいる政治家に『よし、命や尊厳、自由にかかわる人権の話をしよう』と言ってもらうために、一体どれだけの顔を見せなければならないのだろうか」と切実な思いを口にする。
ロシア大統領府は個別事案についてコメントしなかった。ただロシアでは国家に対する破壊活動とみなす行為に関与する人々に対処するための法令を守る必要があり、これらの人々は刑務制度の下で適切に扱われていると説明した。
トランプ氏はこれまで、ロシアの政治犯釈放を公式に要望したことはない。ベラルーシの独裁者でプーチン氏の盟友ルカシェンコ大統領に対しては、1000人以上の「人質」を解放するよう促した。またトランプ氏は、ロシアに囚われている米国市民の奪還には強い決意を示している。
<人間中心の政治を>
16人のノーベル賞受賞者は書簡で「プーチン氏とゼレンスキー氏が善意を示し、単に自分の意見を表明しただけで、何ら暴力犯罪を行っていないのに収監された少なくとも数十人を互いに恩赦すれば、これが永続的で公正な和平の出現を促進する」と述べた。
書簡は、ロシアに1000人余りの政治犯がいると言及。ウクライナでロシアに協力したり、国家反逆罪に問われたりして収監された人の数には触れていない。
16人の署名者にはノーベル平和賞受賞者のホセ・ラモス・ホルタ氏、ジョディ・ウィリアムズ氏、マリア・レサ氏、ノーベル文学賞受賞者のスベトラーニャ・アレクシエービッチ氏らが含まれている。
ムラトフ氏は「政治の中心に人間を置こうとするまで、戦争は続いていく」と警告する。
さらにムラトフ氏は、トランプ氏夫人のメラニア氏が政治犯釈放の取り組みを支援することを期待している。メラニア氏は、ロシアが連れ去ったウクライナの子どもたちの帰国をプーチン氏に働きかけた。米大統領夫人によるこのような行動は、数十年にわたる米ロ関係の伝統にも沿ったものだという。
和平交渉当事者はきっと聞く耳を持ってくれると信じている、とロイターに語ったムラトフ氏は「彼らはこの書簡に耳を傾けると確信しており、どう対応するか見定めていく。彼らの動きを注視する」と強調した。





