ニュース速報
ワールド

アングル:ウクライナ和平協議、忘れられたロシア政治犯の運命 

2025年12月02日(火)14時14分

写真はロシアのジャーナリスト、ドミトリー・ムラトフ氏。2022年9月、モスクワで撮影。REUTERS/Evgenia Novozhenina

Mark Trevelyan

[ロンドン 1日 ロイター] - ウクライナ和平を巡り、米国とロシアが協議を進める中、ノーベル平和賞受賞者でロシアのジャーナリスト、ドミトリー・ムラトフ氏は、予想される議題には肝心の要素が抜け落ちていると指摘する。

米国のウィットコフ特使とロシアのプーチン大統領は2日、ロシアとウクライナの国境や、ウクライナの安全に関する保証、凍結されたロシア資産の扱い、米ロの共同投資などを話し合う見通し。

ムラトフ氏が何よりも心配しているのは、ロシアで収監されている何百人もの政治犯の運命だ。彼らはロシアが2022年のウクライナ侵攻後に制定した検閲法に基づき、ロシア軍の「信用失墜」や「意図的な虚偽情報の流布」の罪に帰せられた。

こうした中で1日、ムラトフ氏を含めたノーベル賞受賞者16人がプーチン氏、トランプ米大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領、欧州連合(EU)宛の公開書簡で、和平案に政治犯の釈放もしくは交換を盛り込むよう訴えた。

ロシア当局から「外国の代理人」とのレッテルを貼られながら、なお国内で編集者として活動を続けるムラトフ氏は、ロイターのビデオ通話によるインタビューで「和平交渉では金や取引、レアアース(希土類)、国境が話題になっているが、人間についての話を聞いたことがあるだろうか。プーチン氏が何を考えているのかは知らない。私が承知しているのは、獄中で人々が死に瀕しており、助けを必要としていることだけだ」と語った。

<顔写真が物語る現実>

ムラトフ氏はインタビュー中、アレクセイ・ゴリノフ氏やチジェーニャ・ベルコビチ氏、アンドレイ・シャバノフ氏ら有名なロシアの反体制派の収監前と現在の顔写真を掲げ、獄中での如実な老け方と健康がむしばまれている様子を示した。

「これらの人たちがどうなっているかを見せたい。多くが生き残れないと誰もが疑いなく思えるように。国際社会すなわちゼレンスキー氏やプーチン氏、(米大統領の)トランプ氏、EUが今、彼らの運命を決めなければ、死んでしまう。交渉の場にいる政治家に『よし、命や尊厳、自由にかかわる人権の話をしよう』と言ってもらうために、一体どれだけの顔を見せなければならないのだろうか」と切実な思いを口にする。

ロシア大統領府は個別事案についてコメントしなかった。ただロシアでは国家に対する破壊活動とみなす行為に関与する人々に対処するための法令を守る必要があり、これらの人々は刑務制度の下で適切に扱われていると説明した。

トランプ氏はこれまで、ロシアの政治犯釈放を公式に要望したことはない。ベラルーシの独裁者でプーチン氏の盟友ルカシェンコ大統領に対しては、1000人以上の「人質」を解放するよう促した。またトランプ氏は、ロシアに囚われている米国市民の奪還には強い決意を示している。

<人間中心の政治を>

16人のノーベル賞受賞者は書簡で「プーチン氏とゼレンスキー氏が善意を示し、単に自分の意見を表明しただけで、何ら暴力犯罪を行っていないのに収監された少なくとも数十人を互いに恩赦すれば、これが永続的で公正な和平の出現を促進する」と述べた。

書簡は、ロシアに1000人余りの政治犯がいると言及。ウクライナでロシアに協力したり、国家反逆罪に問われたりして収監された人の数には触れていない。

16人の署名者にはノーベル平和賞受賞者のホセ・ラモス・ホルタ氏、ジョディ・ウィリアムズ氏、マリア・レサ氏、ノーベル文学賞受賞者のスベトラーニャ・アレクシエービッチ氏らが含まれている。

ムラトフ氏は「政治の中心に人間を置こうとするまで、戦争は続いていく」と警告する。

さらにムラトフ氏は、トランプ氏夫人のメラニア氏が政治犯釈放の取り組みを支援することを期待している。メラニア氏は、ロシアが連れ去ったウクライナの子どもたちの帰国をプーチン氏に働きかけた。米大統領夫人によるこのような行動は、数十年にわたる米ロ関係の伝統にも沿ったものだという。

和平交渉当事者はきっと聞く耳を持ってくれると信じている、とロイターに語ったムラトフ氏は「彼らはこの書簡に耳を傾けると確信しており、どう対応するか見定めていく。彼らの動きを注視する」と強調した。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:ウクライナ、グーグルと独自AIシステム開

ワールド

韓国大統領、クーパン情報流出で企業の罰則強化を要求

ワールド

豪政府支出、第3四半期経済成長に寄与 3日発表のG

ビジネス

消費者態度指数11月は4カ月連続の改善、物価高予想
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 8
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 9
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 10
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中