ニュース速報
ワールド

アングル:インドの路地から消える電子ごみ再生業、規制強化で仕事失う労働者

2025年11月30日(日)07時59分

 デリー北東部の雑多な路地裏をぬけた先にある薄暗い部屋で、シャージャハーンさん(32)は床に座り、ナイフで電線の皮を剝いでいた。写真は電子廃棄物を解体し、リサイクルする男性。4月、アーメダバードで撮影(2025年 ロイター/Amit Dave)

Bhasker Tripathi

[ニューデリー 26日 トムソン・ロイター財団] - デリー北東部の雑多な路地裏をぬけた先にある薄暗い部屋で、シャージャハーンさん(32)は床に座り、ナイフで電線の皮を剝いでいた。そばでは彼女の子ども2人が銅を選別し、破片でつまずかないよう注意しながら室内を動き回っていた。

シャージャハーンさんは小規模のスクラップ業者から持ち込まれた電子廃棄物を分解し、1日に数百ルピー(数百円)を稼いでいる。

だが、その収入は減りつつある。電子廃棄物の多くが首都近郊にある政府の認可を受けた工場に流れ、入手できる廃棄物が減っているためだ。

シャージャハーンさんはファーストネームだけを明かして取材に応じた。

「もし仕事がなくなったら、どうすればいいのか」

インドでは、太陽光パネルや電池、電気自動車(EV)の主な材料となる銅などの鉱物をより多く回収するため、非正規リサイクルの取り締まりが広がっている。

こうした動きは、デリー東部シーランプー地区の人々に大きな損失をもたらしている。

環境保護団体「トキシック・リンクス」が2019年に発表した報告書によると、デリーに5000カ所ある非公式の電気電子機器廃棄物(電子廃棄物、e-waste)リサイクル場のうち、半数以上がシーランプー地区に位置しており、同地で暮らす何万人もの生活を長年支えてきた。

<鉱物探し>

国連の24年の報告書によると、インドは中国、米国に次ぐ世界第3位の電子廃棄物排出国で、昨年の排出量は政府のデータでは175万トンに上る。

インド政府は1月、40億ドルを投じて「国家重要鉱物ミッション」を発足。銅、リチウム、レアアース(希土類)などの重要鉱物を確保するため、海外および国内の鉱山からの供給確保や、電子廃棄物からの抽出を計画している。

政府は電子廃棄物リサイクル工場の設立や運営に対して資金援助を行い、処理能力の27万トン増加や、年間約4万トンの重要鉱物生産、7万人近くの雇用を目標に掲げた。

インドにおける昨年の電子廃棄物のリサイクル率は40%以上と、欧米と近い水準にある。

ただ、持続可能性の専門家らは、認可工場に送られる前の初期段階の分解・分類作業の多くは依然、保護具もない家庭や非正規の作業場で行われていると警告する。

ノルウェーを拠点とする環境研究センター「GRIDアレンダール」の循環型経済専門家、スワティ・シン・サンビアル氏は、インド政府はこうした現実を認識する必要があると指摘した。

「非正規の労働者らは、インドにおける電子廃棄物リサイクル網の第一かつ最も重要な段階の担い手であり続けている。(認可工場へのシフトは)彼らの権利を守り、より良い仕事への道を開くものでなければならない」

<失われる収入>

シーランプーでは長年、非常にシンプルな「リサイクル網」に依存してきた。労働者らは地元のスクラップ業者から廃棄された電線や電子機器を買い取ると、自宅で半導体や銅、アルミニウムを取り出して近隣のバイヤーに売り、そこから工場に供給される、という仕組みだ。

この「供給網」が弱体化しつつある。正規のリサイクル業者が拡大する中、地元当局は電力を遮断したり罰金を科すことで、家庭での解体作業を制限している。また、大手のスクラップ業者や仲介業者も、事業を工業地帯へと移している。

解体作業の危険性は、モハマド・サリームさんの手にも表れている。8年間も電線を剥き続けたサリームさんの手のひらは黒ずみ、傷だらけだ。

「私の稼ぎは2、3年前には1日700ルピー(約1200円)だったが、今では300ルピーに減ってしまった」と狭い2階建ての自宅の外でサリームさんは語った。

「この仕事は、路地から消え去りつつある」

こうした人々の多く、特に女性たちが遠く離れた工場へと職場を移すのは難しいだろうと指摘する声も聞かれた。

モハメド・シャダブさん(28)も、一生懸命に築いた基盤を失う気分だと話した。月給1万ルピーの工場での仕事を辞め、自宅で最大2万5000ルピーを稼げる電子ごみの解体業を始めたという。

「仕事は工場に移っている。認可工場を立ち上げる資金も情報もない。ただの労働者に押し戻されているような気分だ」

複数の正規リサイクル業者らは、今後も非正規労働者の手を借り続けるとした一方、そうした労働者全員を雇用する能力やインフラは不足していると明かした。

ムンバイを拠点とする企業「リサイクルカロ」のラジェシュ・グプタ氏は、企業は認可を受けたバイヤーや基礎的な訓練機会の提供を通じて非正規労働者との連携を模索しているとしつつ、より多くの雇用を生み出すにはさらなる投資が必要だと述べた。

予測可能な供給量と価格がセクターの成長には必要だ、と新興企業プランネックスのヤシュラジ・バルドワジ氏は言う。

インドの規則では、メーカーは政府の認可を受けた施設で1キロあたり最低22ルピーで電子廃棄物をリサイクルするよう義務付けられている。規則を守る施設を支援し、安全でない作業場への依存を減らすのが目的だ。

「価格が安定していれば、成長に自信が持てる」とバルドワジ氏は語った。

この価格規定を巡っては、ダイキン工業のほか韓国のサムスン電子やLG、米空調大手キヤリアといった複数の世界的な企業がインド政府を提訴。固定価格制は市場をゆがめかねないと主張した。

インドにおける「リサイクル網」の構築と、小規模業者や非正規労働者がその一翼を担い続けるかどうかは、この訴訟の行方が左右することになりそうだ。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:「世界一幸せな国」に忍び寄る不安、経済低

ワールド

アングル:インドの路地から消える電子ごみ再生業、規

ビジネス

ANA、エアバス機不具合で30日も6便欠航 2日間

ビジネス

アングル:「AIよ、うちの商品に注目して」、変わる
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 7
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    香港大規模火災で市民の不満噴出、中国の政治統制強…
  • 10
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中