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アングル:マムダニ氏、ニューヨーク市民の心をつかんだ「3つの約束」

2025年11月08日(土)10時47分

写真は5日、ニューヨーク・クイーンズで記者会見するマムダニ次期市長。REUTERS/Kylie Cooper

Maria Tsvetkova

[ニューヨーク 6日 ロイター] - 米ニューヨーク市長選で当選を決めたゾーラン・マムダニ氏(34)が勝利演説を終えた4日夜、ステージの隅で何人かに囲まれながら同氏の姿を見守っていた1人の男性の顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。

この人物こそが、マムダニ陣営のメディア戦略責任者を務めたモリス・カッツ氏だ。お祝い気分に浸る理由には事欠かない。カッツ氏が率いたチームは「家賃凍結」「(ニューヨーク市交通局)バス無料」「ユニバーサル・チャイルドケア(全家庭への無償保育サービス)」というマムダニ氏の3つの公約を広め、多くの若者を中心とする有権者の心をつかむのに貢献した。

カッツ氏がマムダニ氏に協力し始めたのは昨年。それから長い準備期間をかけて、今年6月に行われたニューヨーク市長選の民主党予備選で、ほぼ無名だったマムダニ氏がクオモ前ニューヨーク州知事らを破って党候補指名を獲得する道筋を整えた。

カッツ氏はこの予備選後、マムダニ氏が「われわれが信じるもの」を反映させた大胆なメッセージを作り上げたことが重要だったと振り返り、まだ多くの票を獲得できる余地があると強調。「これまでの政治の枠に縛られる必要などない。われわれが可能だとみなす政治を大胆に思い描けば、それを実際に築くことができる」と意気込んだ。

そしてマムダニ氏が4日の本選で多くの票を取り込んだことで、カッツ氏の正しさは証明された。マムダニ氏の左派的なメッセージはニューヨーク市民に熱気を吹き込み、昨年の大統領選で投票しなかった多くの有権者が投票所に足を運んだ。結果、投票者総数が200万人超と、1969年以来の高水準を記録した。

投票率を急激に押し上げた原動力は若者や新規転入者、賃貸住宅利用者らだったことがNBCニュースの出口調査で判明している。彼らの大半は、米国の都市で恐らく最も跳ね上がっているニューヨークの生活費を下げるというマムダニ氏の提案に心を動かされた。

ブルックリンで投票を行ったバーテンダー兼俳優のマイケル・ダービーさん(26)は「若い新人が新しいアイデアを試し、新しい政策をこの街にもたらすことができるという考え自体が私にはとても刺激的だった」と明かした。

<多様な層からの支持>

多様な人々が暮らす街として知られるニューヨーク市で、マムダニ氏に魅了されたのは若者だけではない。

零細企業経営者で数十年前にバングラデシュからニューヨークに移住したフマユン・アフメドさん(62)は民主党員として登録しながら、昨年の大統領選では変化を期待してトランプ氏に票を入れた。だが、今回のニューヨーク市長選は、生活費高騰が一般市民を圧迫する「アフォーダビリティー危機」を解決するとの訴えが印象的だったマムダニ氏に投票した。

アフメドさんは「金持ちと貧乏人のバランスを取る必要がある」と訴える。

左派色が濃いマムダニ氏の決定的勝利は、来年の議会中間選挙での多数派奪回に向けて立ち位置の模索を続ける民主党にとって1つの青写真を提供した面がある。

とはいえ、マムダニ氏が約束を実行できなければ党勢は後退しかねない。

<政策実現へのハードル>

マムダニ氏が課税強化を提案している富裕層や企業がニューヨークから逃げ出してしまえば、財源をなくして政策遂行ができなくなり、有権者に幻滅を与えてしまう事態があり得る。

また、同氏が約束する主要政策の多くは、穏健派のホークル・ニューヨーク州知事や州議会の党指導部が消極的になる可能性がある増税措置を必要としている。

シラキュース大のグラント・リーハー教授(政治学)によると、ホークル氏もマムダニ氏と同様に保育サービス拡充や手頃な価格の住宅整備の必要性には共感しているものの、マムダニ氏の提案ほど野心的ではない。

リーハー氏は「これらの分野ではマムダニ氏の構想はホークル氏よりもずっと広範囲に及び、スピード感も勝る。ホークル氏の最も注意を払っているのは、たとえそれが富裕層を対象にしたものであれ、新たな税を導入したと見られないようにすることだ」と指摘する。

マムダニ氏の当選により、ニューヨーク市はトランプ氏からの強力な反発に見舞われる恐れもある。既にトランプ氏は同市向け連邦予算の削減をちらつかせている。共和党は早くもマムダニ氏に「共産主義者」のレッテルを貼り、他の民主党メンバーを同氏と重ね合わそうと動き出した。

コロンビア大教授でかつてニューヨーク州民主党の幹部だったバジル・スミックル氏は、最大限楽観的に見積もっても、マムダニ氏のアフォーダビリティー危機解決政策が結果を出すには時間がかかると予想。「ニューヨークは難治の都市として有名だ。(マムダニ氏は)就任後1年の大半は個別政策を前に進めるのに先立ち、合意形成の作業に費やさざるを得なくなる」との見方を示した。

ロイター
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