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アングル:サウジ皇太子、捕虜交換で価値高める ロシアにパイプ

2022年09月26日(月)18時44分

9月23日、 サウジアラビアはロシアとウクライナの捕虜交換で仲介役を果たしたことで、ロシアの孤立を図る西側諸国に対してロシアと実力者ムハンマド皇太子とのパイプは「有益だ」とのメッセージを送ることに成功、外交的な勝利を収めた。写真は2018年11月、ブエノスアイレスで開かれたG20首脳会合に出席したムハンマド皇太子とプーチン露大統領(2022年 ロイター/Kevin Lamarque)

[リヤド 23日 ロイター] - サウジアラビアはロシアとウクライナの捕虜交換で仲介役を果たしたことで、ロシアの孤立を図る西側諸国に対してロシアと実力者ムハンマド皇太子とのパイプは「有益だ」とのメッセージを送ることに成功、外交的な勝利を収めた。

また今回の動きは、2018年に起きたサウジ人著名ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の殺害に関与したとの疑惑で傷ついた皇太子の国際的なイメージの回復にも、意図的かどうかはともかく、役立ちそうだとアナリストは見ている。

ロシアは21日、ムハンマド皇太子の仲介により、捕虜の外国人10人を解放した。うち5人が英国人、2人が米国人。皇太子が慎重に育んだプーチン大統領との結びつきよって解放が実現したもようだ。

時を同じくしてトルコの仲介による捕虜交換で、ウクライナ側兵士215人と親ロシア政党の指導者など55人が解放された。

米ライス大学ベーカー研究所のクリスチャン・ウルリクセン氏(政治学)は、仲介者の選択にあたりサウジとロシアのパイプが重要な要素になったようだと指摘。「ムハンマド皇太子は今回の仲介を承認し、結果を出すことにより、衝動的で破壊的な人物だという評判を覆し、この地域の有力政治家の役割を担う能力があると示すことができる」と述べた。

皇太子は当初、大胆な改革者と見られていたが、カショギ氏殺害事件でそうしたイメージは大きく損なわれた。

皇太子はカショギ氏殺害を命じていないとしつつ、自分の監督下で起きたとして責任を認めている。

<人道的理由を強調>

サウジのファイサル外相はBBCとのインタビューで、捕虜解放に同国が関与した動機は人道的なものだったと説明。皇太子の名誉回復のためだったとの見方については、「ひねくれている」と否定した。

ファイサル氏によると、皇太子は捕虜解放のため4月からプーチン氏と連絡を取り合っていた。当時のジョンソン英首相がサウジを訪問したのを受け、英国人5人が捕虜となっている問題を「理解」したという。

ファイサル氏はフォックス・ニュースのインタビューで「皇太子は、これは人道的行為として価値があるとプーチン氏を説得することに成功し、今回の結果を得ることができた」と振り返った。

解放された外国人には、クロアチア人、モロッコ人、スウェーデン人も含まれており、サウジ機でサウジの首都リヤドに移動した。当局者によると、米国人2人は数日以内にサウジを離れる予定。

ウクライナ戦争が世界のエネルギー市場を揺るがす中、世界最大の石油輸出国であるサウジは米国とロシアの両方にとって重要性が高まっている。

世界中の指導者が石油の増産を求めて次々とサウジを訪れているが、サウジはロシアを孤立させる取り組みに加わる姿勢を見せていない。サウジは、石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟国で構成するOPECプラスなどを通じて、プーチン氏との協力関係を強めている。

<ロシアとの「有益な」関係>

バイデン米大統領は7月のサウジ訪問で同国から原油の即時増産、プーチン氏への強硬姿勢といった課題で言質を取り付けることができず、米国とサウジの緊張関係が浮き彫りになった。

親政府派のコメンテーター、アリ・シハビ氏によると、サウジが捕虜解放を仲介したのは初めてだ。「西側諸国に対して、ロシアとのパイプも有益な目的になり得るとのメッセージを発したのだろう」と分析。「両者との関係を維持する国が必要だ」と強調した。

西側外交筋によると、捕虜交換計画は何カ月も前から進んでいたが、中東湾岸諸国のほとんどの外交筋がそれを知ったのは最終段階に入ってからだった。

ワシントンのアラブ湾岸諸国研究所のクリスティン・ディワン上級研究員は、外交的な仲介役という戦略をサウジが採るのは異例で、普通はカタールなどこの地域の小国が使う手法だと指摘。「錬金術のようなものだ。皇太子は批判を浴びている対ロシア関係を金に変えてみせた」と述べた。

(Aziz El Yaakoubi記者)

ロイター
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