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焦点:脱北兵士は「ナイスガイ」、執刀医が語る人物像

2017年11月25日(土)08時42分

 11月23日、南北軍事境界線を越えて13日に韓国側に亡命した若い北朝鮮兵士は、物静かで感じが良く、北朝鮮に送還される悪夢を見ていると、兵士の主治医が語った。写真は、脱北する際に銃撃され倒れた兵士。国連軍司令部が22日公表したビデオより(2017年 ロイター)

Josh Smith Heekyong Yang

[ソウル 23日 ロイター] - 南北軍事境界線を越えて13日に韓国側に亡命した若い北朝鮮兵士は、物静かで感じが良く、北朝鮮に送還される悪夢を見ていると、兵士の主治医が23日語った。この兵士の名前は、「オー」という名字だけが知られている。

「彼はなかなかナイスガイだ」と、24歳の兵士の手術を執刀し治療を続けているJohn Cook-Jong Lee医師は話した。脱出する際に北朝鮮兵士の銃撃を浴びて重傷を負ったオー兵士は、国際的な関心の的になっている。

国連軍が22日に公表した脱出時の映像は、オー兵士が転げるようにして国境を越え、倒れて意識を失ったところを韓国兵に引きずられて運ばれる様子を捉えている。

病院到着以来、オー兵士と話をしたのはほぼ自身1人だと、インタビューに応じたLee医師は亜洲大学病院の自室でロイターに語った。数フロア離れた病室では、韓国の特殊部隊員や情報機関員に守られたオー兵士が横になっている。

Lee医師は、兵士の病室の壁に韓国の旗を掲げ、兵士を不安にさせるような話題を避けていると話す。オー兵士は、スープのような透明な流動食を初めて口にし、笑顔を見せたり、話したりして、両手を使うことができるという。だが19日には、苦痛の叫び声を上げて目を覚ましたといい、韓国当局者による護衛に今も安心していない様子だと、Lee医師は言う。

Lee医師によると、オー兵士は高等教育を終えてすぐの17歳の時に北朝鮮軍に入隊したと明かした。オー兵士の髪型は米海兵隊員のような刈り上げで、Lee医師が「韓国海兵隊に入ったらどうだ」と冗談を言うと、笑顔を見せた後に、2度と軍隊に戻りたくないと話したという。

医療チームは、何日もかけてオー兵士の体から少なくとも銃弾4発の破片を取り除き、傷ついた内臓を縫合し、結核やB型肝炎、大量の寄生虫などの既往症を治療してきた。

「彼はなかなか頑丈な男だ」と、Lee医師は言った。

オー兵士の亡命後、北朝鮮は軍事境界線の警備にあたる兵士を全て入れ替えたようだと、韓国情報筋は23日に聯合ニュースに語った。

<肺虚脱>

先進的な医療機器を備え、訪韓中の米大統領を含めた要人治療の実績で知られる同病院に米軍ヘリで運ばれて到着した時、兵士個人について分かっている情報は何もなかったと、Lee医師は言う。

搬送中、米軍ヘリの医師はオー兵士の救命に全力をあげ、つぶれそうな状態の肺を救うために胸部に巨大な針を刺していた。

オー兵士はすぐさま診察室に運ばれ、医師らは大量の内臓出血を確認した。「ためらっている時間はないことが分かった」と、Lee医師は23日夜、その診察室で語った。

銃弾を取り除き、傷を縫合するのに2回の大きな手術が行われ、最大12リットルの血液が輸血された。人体の血液量は、通常その半分程度だ。

「命を救ってくれ、これほどの血液を献血してくれた韓国人にとても感謝していると彼は私に話してくれた」と、Lee医師は言った。

病室に韓国のポップ音楽をかけ、米国の映画やテレビ番組を見せているが、ニュースには一切触れさせていないという。

鑑賞したなかでは、米仏合作のアクション映画「トランスポーター3」や、米コメディー映画の「ブルース・オールマイティ」、米ドラマの「CSI:科学捜査班」が気に入った様子だったと、Lee医師は言う。

<傷痕>

ほとんどの脱北者は、韓国に到着すると、情報当局の事情聴取を受けた後、韓国での生活に適応するための教育施設で3カ月を過ごす。その後、政府や地方自治体から現金700万ウォン(約70万円)を1年間支給され、住宅や教育支援のほか、職業訓練を受ける。

脱北者の安全を守るため、1人1人に担当の警察官がつく。

完全に回復しても、オー兵士には一生傷痕が残ると、Lee医師は言う。

なかでも、銃弾でずたずたになり7カ所も縫合が必要だった大腸の傷は、長く残るという。「患者には生涯にわたる健康問題になる。食べる物に細心の注意が必要だ」

今後発症する可能性のある合併症のほか、Lee医師はオー兵士の心理的な回復も心配している。すでに、北朝鮮に送還される悪夢を見たと、オー兵士は話したという。

Lee医師は、早く事情聴取を行いたい考えの韓国軍幹部に対し、オー兵士の回復を待つよう頼んだという。

「この北朝鮮の若者はどこへも行かない。韓国にとどまるのだから、急ぐ必要はない」

(翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)

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