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アングル:中国が活動家に「休暇」強制、党大会中の言論統制で
7月、ノーベル賞受賞者の劉暁波氏の妻劉霞氏が住む北京のアパート前で、写真を撮ろうとしたカメラマンを制止する私服の治安職員(2017年 ロイター/Thomas Peter)
Christian Shepherd
[北京 22日 ロイター] - 北京を拠点とする中国の著名な人権活動家の胡佳氏は、中国政府が提供してくれる「休暇」の行先として南部の都市厦門を希望したが、公安当局者は首を縦に振らなかった。
「今回はもっと人里離れたところに行けと言われた」。滞在先である南西部の雲南省から、胡氏はロイターの電話取材にそう語った。風光明媚で多彩な少数民族文化がある雲南省は、観光客の人気スポットだ。
人権団体によると、胡氏は、北京で18日から1週間の日程で開催されている第19回中国共産党大会の期間中に、当局によって拘束、監視強化、もしくは「休暇」に出された数十人の活動家の1人だという。5年に1度開かれる党大会では、習近平総書記(国家主席)が権力の掌握をさらに進めるとみられている。
強制休暇に際し、胡氏は2人の政府監視人と一緒に行先を決めた。最初の行き先として古い町並みが残る雲南省大理市を胡氏が提案し、監視役として同行する公安部職員が、2番目と3番目の行き先を選んだ。南部の貴州省貴陽市と沿岸部の北海市だ。
胡氏は3人分の旅費は1万元(約17万円)近くになるとみているが、費用は当局が全て支払う。監視人は旅費を節約しようと安いホテルを選び、バスを移動手段にした、と同氏は言う。
党大会終了から数日後の10月28日、胡氏は飛行機で北京に戻る予定だ。
「観光はできるが、公安がどこにでもついてくる」と、胡氏は語る。
ロイターは、胡氏や他の活動家の話を独自に確認することはできなかった。
中国公安部に民主活動家らの拘束や「休暇」に関する質問状をファクスしたが、回答は得られなかった。活動家の処遇に関する質問に対して、「訴追されたのは社会の安定を脅かした犯罪者で、中国の全ての人は法の下で平等に扱われる」以外の回答を中国当局が寄せるのは、まれだ。
重要な政治イベントの前に、中国当局が人権活動家に対する監視や拘束を強化するのは珍しくない。党や国家に対する批判で知られる著名な活動家の場合は、なおさらだ。
<トラック運転手>
党大会を前に、強制的な「休暇」を取らされる以外にも、拘束されたり、自宅軟禁下に置かれたり、オンラインで批判的なメッセージを発しないよう警告された活動家もいたと、香港を拠点とする人権擁護団体「チャイニーズ・ヒューマン・ライツ・デイフェンダーズ」は指摘。
同団体はここ数週間で、人権活動家が拘束された例を14件把握しているという。
そのうち1件では、安徽省宣城市のトラック運転手Wu Kemuさんが11日に警察に出頭を求められ、そのまま拘束されていると、妻のFang Liangxiangさんは22日、電話でロイターに語った。
「いつ釈放されるのか教えてくれない。自宅で待てとだけ言われた」とFangさんは語る。拘束の原因は、チャットアプリ「ウィーチャット(微信)」で政府に批判的な発言をしたためではないかという。
Wuさんが拘束されているという宣城市の拘束施設に21日電話したが、応答がなかった。
今年に入り拘束や逮捕、もしくは「休暇」に出された活動家の総数が、過去の重要イベントと比較して多かったかは不明だ。また、そのうち何件が党大会と直接関係しているかも分からない。
当局は、活動家の拘束より強制休暇を好むと語る活動家もいる。重要なイベント期間中に彼らの動きを中断させ、外国人記者との接触を絶つことができるからだ。拘束すれば、かえって注目を集めることになりかねない。
民主化運動家で、HIV感染患者の擁護もしている胡氏は、2008年から国家転覆を扇動した罪で3年半収監され、釈放後もずっと国家の監視下にあるという。
「(強制休暇で)私が最初にしたのは、大理市近くの山にランニングに行くことだった。公安職員は一緒に走れないと分かっていたからだ」と胡氏は語った。同行の公安職員は「ランニングするタイプではない」と言う。
「少しの間、監獄から自由になれたように感じた」と述べた。
胡氏は、党大会の期間中、北京に滞在することが許されていない人物リストを公安職員から見せてもらったといい、そこにはノーベル平和賞受賞者の劉暁波の未亡人、劉霞氏も含まれていたという。
劉霞氏は、劉暁波氏がノーベル賞を受賞した2010年以降、北京市内で事実上の自宅軟禁下におかれている。友人と時折交わしていた連絡さえ、7月に劉暁波氏が死亡して以来、ほとんど途絶した、と友人2人がロイターに語った。
公安部は、劉霞氏の状況に関する問い合わせに回答しなかった。
当局を避け、自ら旅行の計画を立てた活動家もいる。
10年以上にわたり中国東部にある太湖の汚染問題を訴えてきた江蘇省無錫市の環境活動家、呉立紅氏は先週、公安当局から電話があり、強制休暇に連れて行くと告げられた、とロイターに明かした。
だが呉氏はすでに、公安当局を避けて北京から遠く離れた東部沿岸部の浙江省に友人を訪ねていた。
「第16回、17回、18回の党大会では、強制休暇を取らされたり、拘束されたり、自宅軟禁されて発言を禁じられたりした」と、呉氏は言う。「今回は、彼らなしで旅行に出ることにした」
公安部からは、「休暇」に連れて行けるよう1度無錫市に戻ることを求められたが、呉氏は、党大会が終わるまで友人と一緒に過ごすと説明して断ったという。今は、公安部からの電話を避けている。
ロイターは,彼の話を独自に確認することはできなかった。中国公安部は、電話番号やファクス番号を公表しておらず、ウェブサイトもない。
<草の根が狙われる>
習近平国家主席は、2012年に権力の座について以降、人権派弁護士や活動家への締め付けを強化しており、数十人を拘束。人権擁護団体は、組織的に中国の活動家をつぶそうとしていると糾弾する。
新たに導入されたインターネットの言論統制には、たとえ私的なグループチャットであっても批判的コメントに対するユーザーの責任を問う規則や、規制を迂回しようとする技術の取り締まり強化などがある。
香港の民間団体「中国維権律師関注組」のKit Chanディレクターは、 活動家が拘束された最近ケースのいくつかは、当局の取り締まりの新たな方向性を示していると語る。これまでの民主活動家に加え、特定の市民権に特化した小規模な団体も狙っているという。
例えば、南部広州省を拠点とする草の根組織「ヒューマン・ライツ・キャンペーン・イン・チャイナ」を設立したZhen Jianghua氏が、9月1日に珠海市で拘束された。同氏に近い関係筋がロイターに明かした。
公安部に草の根団体を狙った取り締まりについてファックスでコメントを求めたが、回答がなかった。珠海市公安部の電話に出た人物は、Zhen氏の件は把握していないと述べた。
(翻訳:山口香子 編集:下郡美紀)