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焦点:メルケル首相、新たな連立で欧州統合推進にブレーキか
9月24日、ドイツの保守与党は、連邦議会(下院)選挙で予想通り勝利し、メルケル首相(右)の4選が確実になった。ただメルケル氏は、マクロン仏大統領(左)と共同で進めようとしている欧州統合深化に向けた取り組みにおいて、慎重な対応を強いられる恐れがある。パリで8月撮影(2017年 ロイター/Charles Platiau)
[ベルリン 24日 ロイター] - ドイツの保守与党は、24日に投開票された連邦議会(下院)選挙で予想通り勝利し、メルケル首相の4選が確実になった。ただメルケル氏は、マクロン仏大統領と共同で進めようとしている欧州統合深化に向けた取り組みにおいて、慎重な対応を強いられる恐れがある。
その理由は、与党勢力が第2次世界大戦後初の選挙以降で最も弱体化しそうなため、政権維持に向けて自由民主党(FDP)、緑の党との3党連立という複雑な枠組みを成立させる必要性が出てきたことだ。また移民反対を唱え、欧州連合(EU)に懐疑的な新興右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の議会進出という新たな問題にも直面する。
メルケル氏にとっては、盤石の大連立政権をバックに議会では歯ごたえのない野党だけを相手にすれば良かった過去12年の首相在任中とは、世界が異なるだろう。
ドイツ・マーシャル基金のベルリン事務所長、トーマス・クライネブロックホフ氏は「私の考えでは、新政権の最も重要な外交課題を1つ挙げるとすれば、それはユーロ圏改革だ」と語りつつ、保守与党とFDP、緑の党との連立政権でそれを実行するのは難しいとの見方を示した。
緑の党は24日夜、「欧州強化」が同党の優先課題の1つだと表明した。だがFDPは欧州レベルで政策をさらに統合化することを嫌っている。クライネブロックホフ氏はこうした構図を「(ユーロ圏改革でノーと言う政党とイエスを掲げる政党、漸進主義者の首相という組み合わせ」と描写し、フランスと重要な交渉をするのに決して理想的ではないと述べた。
<異なるベクトル>
ドイツと協力してユーロ圏改革を行うと訴えて大統領になったマクロン氏は、ユーロ圏全体の財務相や予算の設置を提唱。メルケル氏も与党内の疑念を抱えながらも控え目に支持してきた。
ところが与党を組むことになりそうなFDPと、手ごわい野党となるAfDは、いずれもそうした構想に声高に反対しており、メルケル氏が連立相手や国民一般に欧州統合深化を売り込んでいくのは厳しくなりそうだ。
FDPは選挙綱領で、ユーロ圏の金融安定網である欧州安定メカニズム(ESM)の段階的廃止や、加盟国のユーロ圏離脱を認めるような形にEU条約を変更することを掲げた。クリスティアン・リントナー党首は、ギリシャに対して旧通貨ドラクマへの復帰を公然と呼び掛けている。
ある緑の党の議員はロイターに「こと欧州問題では、FDPはAfDと主張にそれほど差がない部分がある。FDPの考えが全て実行されれば、ユーロ圏危機が再燃してしまう」と懸念を伝えた。
メルケル氏の新政権にとってFDP以外にも厄介な問題がある。保守与党のパートナーでバイエルン州の地域政党、キリスト教社会同盟(CSU)は、難民問題で既にメルケル氏が率いるキリスト教民主同盟(CDU)と隙間風が吹いているが、今回のAfDの躍進を受けて来年のバイエルン州議会選でさらに右傾化してしまう可能性がある。
保守与党全体としても、AfDに流れた有権者を取り戻すことは重要な課題の1つであり、おのずと移民や欧州統合に関してより強硬な姿勢で臨む形になるだろう。
<低い優先度>
今回の選挙前でさえ、メルケル氏に近い何人かの関係者は、ユーロ圏改革を優先度の低い政策課題と位置付け、欧州の国境管理態勢やEU各国間の公正な移民受け入れ負担を確立する方が先だと主張していた。
あるドイツ政府高官は先月ロイターに「欧州にとってユーロ圏危機よりも難民危機の再来がより破滅的だ」と話した。
一方、ベルテルスマン財団が昨年実施した調査では、欧州の政治経済統合をさらに進める必要があると考えるフランス人の割合は41%と、EU平均を10%ポイント下回っている。
この調査では、マクロン氏が提案したユーロ圏財務相と予算について最も懐疑的だったのがドイツ人とフランス人だったことも分かった。ユーロ圏の予算導入がより経済が弱い国の支援に有効とみなしたフランス人は全体の31%、ドイツ人も39%にとどまっている。
(Noah Barkin記者)