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特別リポート:拡大するロヒンギャ武装勢力、ミャンマー混沌の裏側

2017年09月13日(水)16時20分

 9月7日、イスラム系少数民族ロヒンギャ武装勢力の暴動を受けたミャンマー治安部隊による過酷な弾圧によって、多数の若者が武装勢力の支持に回っている実態が浮き彫りに。写真はボートで隣国バングラデシュに逃れたロヒンギャ難民。10日撮影(2017年 ロイター/Danish Siddiqui)

Wa Lone and Antoni Slodkowski

[ヤンゴン 7日 ロイター] - ミャンマー北西部の紛争について約1年に及ぶ調査を終えたアナン前国連事務総長は先月24日、イスラム系少数民族ロヒンギャ武装勢力の暴動に対する同国治安部隊による過剰な軍事報復は、両者の対立をいっそう悪化させるだけだと警告した。

この警告のわずか3時間後、同日午後8時過ぎに、ロヒンギャ反体制勢力の指導者アタ・ウラー氏は、支持者に対し、武器として使える金属製品をもって、人里離れたマユ山の麓に向かうよう促した。

夜半過ぎ、寄せ集めのロヒンギャ武装勢力が、国内最大都市ヤンゴンから600キロ北西の地域で、ナイフやこん棒、小火器や原始的な爆発物を使い、警察の拠点30カ所と軍基地1カ所を襲撃した。

「200─300人が出撃すれば、50人は命を落とすだろう。神のご意志で、残りの150人はナイフで彼らを殺すことができる」。アタ・ウラー氏は、別の音声メッセージで支持者にそう語りかけた。このメッセージは、襲撃時刻の前後に携帯電話のメッセージアプリで流れ、その後ロイターは録音された同メッセージを確認した。

アタ・ウラー氏率いる「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」による今回の襲撃は、これまでの最大規模となった。

このグループが初めて登場した昨年10月には、約400人の戦闘員が動員されたとミャンマー政府は推定しており、その時の襲撃対象は警察の国境検問所3カ所だけだった。今回の襲撃には最大6500人が参加した、とミャンマー軍は推測している。

昨年10月の襲撃後に行われたミャンマー軍による弾圧に刺激されたロヒンギャの若者多数が、ARSAの支持に回った。そのため同組織は以前と比べはるかに大規模な襲撃を仕掛ける能力を得たという。ロヒンギャ、ラカイン州住民、治安部隊隊員、現地の行政官など10数人に対するロイターの取材で明らかになった。

10月の苛酷な報復は、軍部隊が複数の村を焼き払い、民間人に対して殺害や強姦を行ったという疑惑に発展している。

民族対立の深まるラカイン州の危機は、ミャンマーの指導者アウン・サン・スー・チー氏が抱える最大の試練と化している。この問題におけるスー・チー氏の対応は、民主化の旗手として彼女をこれまで支持してきた西側諸国の人々を幻滅させている。

国連のグテレス事務総長は5日、ミャンマー当局に対し、ロヒンギャのムスリムに対する暴力を止めるよう要請し、民族浄化や人道的危機、そして地域の不安定化を引き起こす可能性があると警告した。

数世代にわたってアパルトヘイト(人種隔離政策)に近い条件の下で暮らしているムスリム少数民族の不満に、スー・チー氏が対応できなかったことによって、彼らの間で武装勢力に対する支持が高まっている、とロヒンギャの指導者や複数の政策アナリストは指摘する。

<本格的な反撃>

まだ駆け出しのロヒンギャ武装勢力は、何十もの村々にまたがる下部組織で構成されるネットワークへと変身し、幅広い攻勢を仕掛ける能力を有するまでに至っている。

ミャンマー政府はARSAをテロ組織と認定。また、ARSAが当局への内通を防ぐためにムスリムの民間人を殺害しており、ロヒンギャの複数の村々を焼き払ったと非難しているが、同グループはこうした疑惑を否定している。

同組織による最新の襲撃は、政府側からの本格的な反撃を招き、ミャンマー軍によれば、反体制派の約400人が殺害され、治安部隊側にも13人の死者が出たという。

ロヒンギャの村民と人権団体関係者は、軍が無差別に村落を攻撃し、家屋に火を放っていると主張する。一方、ミャンマー政府側は、合法的な対テロ作戦を実施しており、部隊には民間人を傷つけないよう命令が出ているとしている。

先月25日以降、数十万人のロヒンギャが隣国バングラデシュに逃れており、人道上の危機発生に対する懸念が高まっている。ムスリム以外の村民約2万6750人も、ミャンマー国内の別地域に移動させられている。

スー・チー氏は、アナン氏が率いる国連諮問委員会による、ロヒンギャの統合推進を求める勧告を受け入れると発言。その一方で、同氏は以前、ミャンマーの民族的な複雑さを理解するよう訴えていた。

スー・チー氏は6日発表した声明で、「テロリスト」がラカイン州における紛争について「膨大な虚偽情報」を流していると批判。だが、国外に逃れたロヒンギャについては何の言及もなかった。

<「人間らしい生活ではない」>

ARSAの指導者アタ・ウラー氏は3月、同グループの誕生は、2012年のラカイン州で起きた仏教徒・ムスリムのコミュニティー同士の暴力的衝突と関係している、とロイターに語った。この衝突で200人近くが殺され、ロヒンギャを中心とする14万人が住居を失った。

「夜間に明かりをつけることもできない。日中に別の場所に移動することも無理だ」。これまで未公開だった発言のなかで、ウラー氏はロヒンギャ住民の行動や移動に、そうした制約が課せられていることをロイターに明かした。

「すべての出口や入口、至るところに検問所がある。これは人間らしい生活ではない」と語った。

数十年にわたる軍政が終わり、スー・チー氏のもとで新たな自由を享受しているミャンマーだが、ムスリムの少数民族ははますます無用のものとして扱われている、とラカイン州北部にいるロヒンギャ社会のコミュニティーリーダーは指摘する。昨年の軍による掃討作戦以降、反体制勢力への支持は増しているという。

「治安部隊がわれわれの村に来たとき、村民は皆、彼らに謝罪し、家を焼かないでくれと懇願した。だが治安部隊は、その要請をした村民たちを撃った」と彼は言う。

「慈悲を乞うたにもかかわらず、目の前で息子たちを殺され、娘や姉妹を強姦されたことで、人々は苦しんでいる。そのことを絶えず思い出さずにはいられない。死のうが生きようが、戦いたいと願っている」

ロイターは村民たちの主張を、独自に確認できなかった。

元軍情報部トップのミン・スエ副大統領が8月取りまとめた政府調査では、軍による昨年の掃討作戦中に人道犯罪や民族浄化があったとの告発を退けている。

<下部組織のネットワーク>

ARSAは昨年10月以来、ラカイン州の数十の村に下部組織を創設しており、これを拠点に現地の活動家がさらに参加者を募っている、と村民や警察官は指摘する。

「コミュニティーのなかで、人々は思いを共有し、言葉を交わし、他地域の友人や知人にもそれを伝えている。こうして、ARSAは爆発的に拡大した」とロヒンギャ社会のコミュニティーリーダーは語る。

州北部ブティダウンにあるKyee Knoke Thee村の長老Rohi Mullarah氏によれば、ARSA指導者は「WhatApp」や「WeChat」といったアプリを使って定期的かつ頻繁に支持者に対してメッセージを送っている。

自由と人権のために戦うよう彼らを励まし、政府軍の多い地域に入って逮捕されるリスクを負わずに、多くの人々を動員できるようにしているという。

「彼らは主に、村民に携帯メッセージを送っており、人々をどこかに連れ回したりはしない」とこの長老は言う。彼自身の村は反乱には加わらず、村の入口には、武装勢力が村民の参加を募ろうとすれば村民から攻撃される、という趣旨の警告が掲示されている。

ロヒンギャの長老の多くは数十年にわたって暴力を否定し、政府との対話を求めてきた。ARSAは、不満を抱いている若い男性を中心に若干の影響力を持つようになっているとはいえ、こうした長老の多くは同グループの暴力的な戦術を批判している。

<テロ作戦>

ここ数カ月、ラカイン州では地元行政官や政府への情報提供者、村長などの殺害が報告されており、武装勢力が、自分たちの活動に関する情報が治安部隊に漏えいすることを防ぐために残虐な戦術を採用しつつあるのではないかという憶測につながっている。

ラカイン州警察トップのセイン・ルイン氏は、「恐怖を植え付けることで政府への情報提供を遮断し、地域を支配した」と非難する。

ラカイン州北部での作戦に直接関与している軍関係者によれば、ARSAの計画に関する情報を入手することが、以前よりもはるかに難しくなっているという。これによって、一部の地域では「政府の機能が停止」いるという。「そのような場所にあえて留まろうとする政府職員はいないからだ」とこの軍関係者は語る。

州北部ブティダウン地区のある村長は、武装勢力から数回にわたって連絡を受け、村の若者を何人か訓練に参加させるよう要求されたが、断ったという。

「身を守るため、ときには警察署や地元行政官の家で寝させてもらわざるを得なかった」とこの村長は語った。

<密告>

武装勢力による情報遮断はおおむね成功しているが、軍関係者によれば、8月25日の襲撃がミャンマー治安部隊により大きな損害を与えずに済んだのは、ある情報提供者による密告だったという。

前日24日の夜、アタ・ウラー氏の部下たちがジャングル地帯に向かってから約1時間後、軍はロヒンギャの情報提供者から、襲撃が迫っているという合図を受けたという。

午後9時時点でのメッセージでは、複数の襲撃が迫っていると伝えられたが、どこが襲撃されるかは特定されていなかった。だがこの警告で十分だった。軍関係者によれば、治安部隊はいくつかの部隊をより大規模な拠点に退避させ、戦略的な地点を強化することで、政府側の多くの命を救ったという。

武装勢力による襲撃は午前1時前後から夜明けにかけて数波にわたって行われた。襲撃はもっぱら、昨年10月にもアタ・ウラー氏が3回の襲撃を行ったマウンドー地区で起きたが、今回は襲撃地点の北端から南端までの距離が100キロに及んでいた。またロヒンギャ武装勢力は、隣接するブティダウン地区北部も襲撃し、軍基地を攻撃しようという大胆な試みもあった。

「地理的にこれほど広い範囲で襲撃があるとは驚いた。地域全体が動揺した」と軍関係者は語った。

(翻訳:エァクレーレン)

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