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焦点:ハンブルクG20サミット、賭けに出るメルケル首相

2017年07月03日(月)15時52分

 6月29日、7月7─8日のG20サミットの舞台に、議長国ドイツのメルケル独首相(中央)は港湾都市ハンブルクを選んだ。ベルリンで撮影(2017年 ロイター/Fabrizio Bensch)

[ハンブルク 29日 ロイター] - 7月7─8日の20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)の舞台に、議長国ドイツのメルケル独首相は港湾都市ハンブルクを選んだ。

通例では民衆から隔離された場所で開かれるサミットを、あえてデモ隊が容易に取り囲める都市で開催するのは、トランプ米大統領、ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領らに対し、開かれた民主主義というメッセージを送る狙いもある。

ただ、警察が暴動の取り締まりに失敗すれば、連邦議会選挙戦の渦中にあるメルケル首相にとって大失点となるだけに、首相は大きな賭けに出た格好。政策面でも、気候変動、貿易、移民といった議題を巡って首相はトランプ大統領に強い態度で対峙する構えで、事前の根回しに基づき粛々と行われる従来のサミットとは様変わりしそうだ。

首脳会議の準備に携わったドイツ高官は「正直なところ、ハンブルクではなにが起こるか分からない。強い一体感を打ち出すサミットにならないのは間違いない」と打ち明ける。

「一番心配なのは警備だ。ジェノバ・サミットの二の舞になれば、失敗になる」と高官は続けた。2001年にイタリアのジェノバで開かれたG8首脳会議では、デモ隊が警察隊と衝突し、数百人が負傷、1人が死亡した。

メルケル氏の出生地でもあるハンブルクは欧州屈指の貿易拠点で、ビートルズが下積み時代を過ごしたことで知られるナイトクラブや、複数のドイツ主要メディアの拠点などがある。

<地獄へようこそ>

首脳会議に先立ち、ドイツ政府はデモ隊が会議に抗議の声を挙げるのを認めることを強調した。

首相の報道官は「我が国では、人々が声を挙げる権利を持っている。すべての市民に抗議の権利があり、それはG20にもあてはまる」と述べた。

これは警察にとっては大きなプレッシャーだ。警官約2万人と併せて犬や馬、ヘリコプター、7.8キロに及ぶ鉄柵が動員される。

これに対し、デモ隊数万人が会議場を取り囲む計画。警備当局者によると、8000人程度は無政府主義者や左寄りの過激派で、会議前夜に「地獄へようこそ」と称する資本主義への抗議行動を計画している。他のデモ隊は会議当日に抗議行動を行う見通しだ。

警察はまた、トルコと武装闘争を繰り広げる非合法武装組織クルド労働者党(PKK)と、エルドアン大統領を支持するトルコの愛国主義者らとの衝突も警戒している。

<気候、貿易、移民>

政策面では、トランプ大統領の「米国第一主義」がドイツ政府にとって最大の頭痛の種だ。

大統領は、G7諸国の訴えを無視して地球温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を決定。イタリアのシチリア島で先月開かれたG7サミットの首脳宣言に明記された「保護主義と闘う」との誓いも破っているようだと、ドイツ高官らは指摘する。移民問題でもドイツと意見が対立する。

気候変動と貿易に関して、G20サミットでメルケル氏の一番の相棒は習近平・中国国家主席だった、ということになるかもしれない。

ブリュッセルのシンクタンク、エルカノ・ロイヤル・インスティテュートのシニア・リサーチ・フェロー、ウルリッヒ・スペック氏は「何でもありだ。西側諸国に明確な姿勢があるわけではない。国際社会の景色が一変してしまった」と話した。

(Noah Barkin 記者)

ロイター
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