ニュース速報

ワールド

焦点:領土交渉への期待値下げる日本、ロシアとの首脳会談控え

2016年12月08日(木)18時23分

 12月8日、安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領の会談を来週に控え、日本では領土交渉への期待値が低下しつつある。経済協力は一定の成果を見込むが、領土問題は協議が具体化するにつれて難航しているもようだ。リマで11月撮影。提供写真(2016年 ロイター/Sputnik Photo Agency)

[東京 8日 ロイター] - 安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領の会談を来週に控え、日本では領土交渉への期待値が低下しつつある。経済協力は一定の成果を見込むが、領土問題は協議が具体化するにつれて難航しているもようだ。

ロシアとの関係改善を示唆するトランプ米次期大統領の登場も不確定要素で、今回の会談では大きな進展が望めそうにないとの見方が関係者の間で強まっている。

<後手に回る安全保障の議論>

12月5日の政府与党連絡会議。領土問題を含むロシアとの平和条約締結交渉について安倍首相が発した言葉は、2カ月前から明らかにトーンダウンしていた。

9月のプーチン大統領との会談では「手応えを感じた」(安倍首相)はずだったが、11月のペルーでの会談後の会見では「そう簡単な課題ではない」(同)、そして5日の会議では「1回の会談で解決できるような簡単な問題ではない」(同)と述べ、態度を後退させた。

ロシアとの平和条約締結という政治遺産を残しつつ、台頭する中国への対抗策としてロシアとの接近を図る安倍首相は、経済協力をテコに領土交渉を前進させようとしてきた。

プーチン大統領にとって、領土問題での妥協は政治的なダメージになりかねないが、日本と経済的な結びつきを強めることは、制裁とエネルギー価格の低迷に苦しむロシアにはメリットのある話だった。

日本の関係者によると、日ロ両政府の交渉は経済協力が先行した。首相官邸と世耕弘成経済産業相を中心に約30項目の優先プロジェクトを決め、案件の具体化に向けた調整を精力的に続けた。

一方で、ロシアから引き渡された後の島に対し、日米安保条約の適用をどうするのかなど、安全保障面の交渉は後手に回った。

10、11月ごろから安保面の議論がようやく具体化し始めたもようで、同関係者は「ロシア側の空気が冷たくなった」と指摘する。「たとえば国後島の境界ぎりぎりで何かが起きたときに米軍はそこへ行けるのか。おおざっぱに議論しているうちはみんな総論賛成だが、詳細を話し始めると乗り越えがたい問題が出てくる」と話す。

かねてから浮上している共同経済活動についても、日本は自国の主権が侵害されないことを前提としており、4島の主権を主張するロシアとの隔たりはなお大きい。日ロ交渉に詳しい別の関係者は、主権問題で両国が折り合うことは困難と見ており、首脳同士の信頼関係だけで突破口を開くのは容易ではないと指摘する。

<「解決に向けた協議入り」>

米国の次期大統領にトランプ氏が就任することが、ロシア側の交渉姿勢に影響しているとの指摘もある。トランプ氏は大統領選勝利後、プーチン氏から受けた電話で、ロシアとの関係改善を望むことを伝えた。「ロシアが欲しいのは、国際的な経済制裁を受けている自国の横に、経済大国の日本が立っている姿。トランプ氏が制裁を緩める可能性があるなら、日本が立っている必要はなくなる」と、関係者の1人は話す。

安倍首相の地元の山口県で開く15、16日の首脳会談では、2013年に開いたきりの外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)の再開を議論する可能性も取りざたされている。経済協力の合意と合わせ、ロシアのクリミア併合で悪化した両国の関係が改善していることをアピールする。

しかし、領土問題については「解決に向け、一気に行くと期待するほうが間違い。期待値を上げてはいけない」と、長くロシアとの領土交渉に従事し、今も安倍首相に助言する鈴木宗男・元衆院議員は言う。「1956年の日ソ共同宣言をもとに、具体的な、解決に向けての協議に入ると、こう言えればいいと思う」と、同氏は話す。

*見出しを修正しました。

(久保信博、梅川崇、リンダ・シーグ、竹中清 編集:田巻一彦)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中