ニュース速報

ワールド

アングル:独立100年迎えるフィンランド、ロシアの横やり警戒

2016年10月24日(月)16時11分

 10月19日、ロシア帝国からの独立100周年を来年迎えるフィンランドは、1917年の独立の合法性について疑義を唱えるロシアの「プロパガンダ」に警戒を強めている。写真は、フィンランドに影響を与えようとする動きを監視する官僚ネットワークを率いるマルック・マンティラ氏。首都ヘルシンキで13日撮影(2016年 ロイター/Tuomas Forsell)

[ヘルシンキ 19日 ロイター] - ロシア帝国からの独立100周年を来年迎えるフィンランドは、1917年の独立の合法性について疑義を唱えるロシアの「プロパガンダ」に警戒を強めている。

かつてロシア帝国の一部であったフィンランドは、1340キロに及ぶ国境をロシアと接しており、同国との間には複雑で血にまみれた歴史がある。ロシアによる2014年のクリミア併合と、バルト海での武力による威嚇を受けて、軍事的中立を保つ欧州連合(EU)加盟国のフィンランドは安全保障上の懸念を募らせている。

今月に入り、フィンランドとエストニアは、ロシアの戦闘機が自国の領空を侵犯したと非難。ロシアはまた、ポーランドとリトアニアに挟まれた自国の飛び地カリーニングラードへ核搭載可能なミサイルの移動を開始している。

まだロシア帝国の一部だったフィンランド大公国時代に建てられた政府宮殿の中にあるオフィスで、マルック・マンティラ氏はフィンランドに影響を与えようとする動きを監視する官僚ネットワークを率いている。

同氏によると、フィンランドはロシア大統領府が主導するメディア攻撃の嵐に直面しているという。

「ロシアによるこのような攻撃の狙いは、指導者と市民の間に不信感を生み出し、われわれ自身に有害な決定をさせることだと考えている」とマンティラ氏は指摘。「市民にEUに対する疑念を持たせ、フィンランドが北大西洋条約機構(NATO)に参加しないよう警告する狙いもある」

フィンランドは1917年のロシア革命時に独立を勝ち取ったが、第2次世界大戦におけるソ連との戦いで危うくそれを失いかけた。冷戦時代には、経済的にも政治的にも西側に近くあり続ける一方、ソ連との対立は避けてきた。

通信当局の責任者も務めるマンティラ氏によると、ロシアのメディアは先月、「血も涙もない」フィンランド当局が「国籍が原因で」同国に住むロシア人の家族から子どもを引き取ったと報じた。

フィンランド政府は、司法手続きのため個々の案件にはコメントできないとしたうえで、このような報道を否定した。だが過去数週間にわたり、この話はロシアで何度も伝えられている。

ロシアのNTVテレビは「フィンランド市民でさえ、自国を子どもを恐怖に陥れる非情で理不尽な国と呼んでいる」と伝えた。

<歴史的人物も標的に>

マンティラ氏は、自身が率いるネットワークが数年前から、フィンランドに対する明らかな情報活動を約20件確認していることを明らかにした。また、「可能性が非常に高い」ケースも約30件あるという。

「組織だった偽りのキャンペーンが行われている。悪いジャーナリズムという問題ではない。中央が支配しているとみている」と同氏は語る。

ロシア大統領府と同外務省当局者からコメントは得られていない。

フィンランドのソイニ外相も、プロパガンダとみられるそうしたロシアの活動を認め、政府は事実に対する誤った情報に反論しているとし、「あらゆる国がプロパガンダに関与するが、独裁国家であればなおさらだ」と語った。

なかには、フィンランドの独立やその歴史的人物に狙いを定めたものもある。

ロシアのサンクトペテルブルクにある大学で6月、フィンランドの最も有名な軍人であり、元大統領でもあるカール・グスタフ・マンネルへイムの記念銘板が掲げられた。

するとその銘板はすぐさま、フィンランドではソ連との戦いのシンボルと見られているマンネルへイムを、人殺しで冷酷なナチス・ドイツの協力者とみなして抗議する人たちの標的となった。

「銘板は何度もおのでたたかれ、赤ペンキを浴びせられた」とマンティラ氏。そもそもマンネルへイムの銘板を掲げるというプロジェクトにフィンランドは関わっていないという。

この出来事は、ソ連の初代指導者レーニン率いるボリシェビキ政権がフィンランドの独立を受け入れる権利のないことを示唆する報道を受けて起きたと、マンティラ氏は考えている。

フィンランドは来年、独立100周年を迎える。それはまた、ボリシェビキ革命(十月革命)の記念日でもある。

(Jussi Rosendahl記者、Tuomas Forsell記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

プーチン氏、5月に訪中 習氏と会談か 5期目大統領

ワールド

仏大統領、欧州防衛の強化求める 「滅亡のリスク」
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中