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アングル:英国、EU市場へのアクセス維持へ「第三の道」模索も

2016年06月28日(火)16時38分

 6月27日、欧州連合(EU)離脱の賛否を問う英国民投票で離脱派を主導したボリス・ジョンソン前ロンドン市長は、EUとの自由貿易を維持しつつ、移民の流入を抑制し、EUへの支払いを削減することが可能と考えているようだ。ロンドンで24日代表撮影(2016年 ロイター)

[ブリュッセル 27日 ロイター] - 欧州連合(EU)離脱の賛否を問う英国民投票で離脱派を主導したボリス・ジョンソン前ロンドン市長は、EUとの自由貿易を維持しつつ、移民の流入を抑制し、EUへの支払いを削減することが可能と考えているようだ。

しかし専門家らは、英国が労働者などの自由な移動とEU予算への相当額の拠出を受け入れることなく、EU単一市場への完全なアクセスを維持する手だてはないと指摘する。

こうした中、双方の識者の間では、英国とEUの間で強化されたパートナーシップ構築に向けた可能性を模索する動きが水面下で出始めている。正式なメンバーシップではないものの、トルコやスイス、ウクライナやイスラエルなどの国々にとってモデルとなるような関係だ。

だが、EU閣僚理事会の法律サービス責任者を務めたことのあるフランス人弁護士ジャン・クロード・ピリス氏は「越えられない制限がある。市場へのアクセスを多く認めれば、それだけ4つの自由移動を受け入れる必要性が強まる」と指摘。EU条約が定めるモノ・資本・サービス・人の自由移動の原則に言及した。

同氏はロイターのインタビューで「条約で認められていることしかできない。英国に特別な取引を認めるために条約が変更されることは決してない」と語った。

ジョンソン前ロンドン市長は、英デーリー・テレグラフ紙への寄稿で、英国は今後もEU単一市場へのアクセスを維持するとの考えを示した。

英国は自由貿易協定(FTA)などの形で欧州との関係を築くことができ、経済発展を遂げているEU域外の国とのFTA締結も可能だと主張。「今後もEU市場へのアクセスを維持する」と述べた。さらに、EUからの離脱を急ぐことはないとの考えを示した。

EU当局者や弁護士は、今後の関係構築をめぐる議論において、時間を稼ぐことが英国にとって最強の武器になるものの、それはもろ刃の剣だと指摘する。

EUの切り札は市場へのアクセスだ。特に金融機関はロンドンからEU域内諸国へのサービス提供を可能にしている「パスポート」を維持することに躍起だ。こうした企業は長引く不透明な状況に耐えるのではなく、ロンドンからオフィスや人材を移動させ始めるかもしれない。

<離脱の通知なければ交渉もなし>

EUの準備担当官(シェルパ)らは26日、英国がEU基本条約(リスボン条約)50条を発動しない限り同国は離脱交渉を開始することはできないとの見解で一致した。

参加者らによると、これは非公式の事前交渉もできないことを意味するという。

しかし実際には予備的に接触する段階が設けられ、英国はどういった取引が可能かを探り、加盟国は英国が譲歩できる内容について明確化を図るだろう。

キャメロン英首相は、正式な離脱交渉を開始するリスボン条約50条の発動を行なわない姿勢を示し、交渉時期は英国が判断するとしている。

しかしフランスやベルギーなど同盟国は、英国との特別な関係をめぐる非公式協議に伴い不透明な状況が長期化すれば、英国に追随してEUに交渉を迫る国が現れ、EU分裂につながる恐れがあると懸念している。

フランス当局者は「英国が明確なタイムテーブルを示すことが必要だ」と指摘した。

<第三の道>

EUとの関係では既存の枠組みにとらわれず、メンバーシップと、貿易の恩恵が少ない緩い関係との間で第三の道を探る動きが出ている。

元駐EUイスラエル大使で、イスラエルのシンクタンクである国立安全保障研究所研究員のオデド・エラン氏は、2010年に同僚らと「メンバーシップマイナス」モデルを開発した。完全なメンバーシップではないが、双方にとって多くの利点を享受できる関係だ。

EUの規則や関連政策の基準を採用すれば、加盟国としての恩恵や義務はないものの、イスラエルやトルコ、モロッコといった国は、研究イノベーション計画「ホライズン2020」などEUのほとんど、あるいはすべての機関に参加できる。

エラン氏は、ロイターの電話取材に対し「彼らは意思形成に関与できるが、意思決定には関与できない。関連する政策分野の(閣僚)会議に出席して発言できるが、投票権はない」と説明。

「これはかなり容易に英国に適用できる可能性がある。英国はすでに法令集にすべてのEU規則を掲載している」と語った。

さらに、「結局のところ、すべてはEUが大人として対応するか、あるいは英国を懲らしめたいと思うかにかかっている」と指摘した。

(Paul Taylor記者 翻訳:佐藤久仁子 編集:加藤京子)

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