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インタビュー:日銀利上げ、円安とインフレの悪循環回避必要 金利先高観醸成を=関MUFG専務

2025年12月10日(水)07時49分

写真は三菱UFJフィナンシャル・グループの関浩之執行役専務。12月8日、都内で撮影。REUTERS/Miho Uranaka

Tomo Uetake Miho Uranaka Makiko Yamazaki

[東京 10日 ロイター] - 三菱UFJフィナンシャル・グループで市場事業本部長を務める関浩之執行役専務は、ロイターの単独インタビューに応じ、今月の日銀政策決定会合での利上げが市場に織り込まれる中、焦点は今後の金利引き上げ余地に移ったと指摘。日銀には、インフレ対策としての利上げが不十分なために円安が進んでさらに物価を押し上げる悪循環の事前回避が求められると語った。  

グループ中核の三菱UFJ銀行は足元で約30兆円の国債を保有する債券市場の主要プレーヤー。同行副頭取でもある関氏は、国債運用について、足元の長期金利の上昇過程で打診的なポジション再構築を進めており、2.0%を超える局面でペースをさらに上げる考えを示した。

インタビューは8日に実施した。主なやり取りは以下の通り。

――今月18─19日の日銀決定会合について。

「日銀は12月会合で政策金利を0.25%引き上げ、0.75%とする可能性が高い。市場の関心は、もはや利上げの有無やタイミングより、景気を刺激も冷やしもしない中立金利の水準の考え方など、今後の金利引き上げ余地を巡る示唆があるかどうかに移っている」

「足元の為替市場では、日銀の利上げがほぼ織り込まれたにもかかわらず、1ドル150円台半ばの円安水準にとどまる。利上げを実施する決定会合での日銀のコミュニケーションが、仮に市場で金利先高観が醸成されないものに終われば、利上げしたにもかかわらず円安が進み、輸入物価の再上昇を通じた物価の上振れリスクが高まる可能性に留意が必要だ」

「残念ながらその場合は、インフレがさらに加速する中で日銀の利上げが物価上昇に追いつき切れず、実質金利が上昇しない状況で、人手不足等の供給制約が高まる環境にもかかわらず、政府が拡張的な財政政策を進めることと相まって、円安が一層進行するといった負のスパイラルに陥る、いわゆる『ビハインド・ザ・カーブ』のリスクが市場で意識され始めかねない」

――今後の利上げパスやターミナルレートをどうみるか。

「次回利上げ以降の利上げペースは、経済・物価が日銀の見通し通りに推移することを前提に、半年ごとに0.25%ずつ引き上げていくシナリオが有力視される。一方、衆院解散の有無やタイミング等を含む今後の政局次第では、先行きの利上げ時期やペースが後ずれするリスクもあり、引き続き政治動向にも留意が必要だ」

「ターミナルレート(利上げの到達点)については、市場は現状、2027年半ばまでに1.25─1.50%程度の水準に到達するとみている」

「今後の政策金利を見通すにあたっては、次回利上げ時の会合で日銀が中立金利の水準の考え方をはじめとした、金利引き上げ余地について示唆を行うか、市場で金利先高観が醸成されるコミュニケーションがあるか等を見極める必要がある」

「利上げの後ずれが想定される、あるいは実際に後ずれする場合には、実質金利が上昇しづらい中でインフレ懸念が高まり、円安が進行し、それに伴いターミナルレートも上振れするリスクが生じる。足元の市場では、高インフレ下での高市政権の積極財政姿勢により、インフレ長期化とターミナルレート上振れへの懸念が意識されつつある」

「日銀としては、高インフレの定着や円安進行を回避すべく、より早期の利上げを進め、かつ金利先高観の醸成を継続的に促しながら金融政策の正常化を着実に進め、悪循環の事前回避が求められる局面にある」

――日本国債市場について。

「10年債利回り(長期金利)は、来年度まで見越した当面のレンジとして1.7%─2.4%を見込んでいる」

「世界経済の不確実性が高まる中、先進国では政権基盤が弱体化し財政が拡張しやすい環境が続き、グローバルに長期金利に上昇圧力がかかりやすい。日本でも政治情勢が大きく動いており、財政拡張や円安進行への懸念が高まる可能性がある。財源の裏付けが不十分な減税策や防衛費の増額、約80兆円の対米投資の具体的内容(外為特会の活用を含む)によっては、長期・超長期金利の上昇や円安の進行のリスクが一段と高まる恐れがある」

「インフレ長期化や国債増発、財政悪化への懸念など、高市政権の政策運営に対する不透明感が払拭されない状況が続く中、仮に政策金利が1.5%に達した場合には、10年金利が2.5%を上回る可能性も否定できない」

「政府は過度な金利上昇を抑制し、長期にわたる安定的な財政運営・国債の安定消化を図るため、財政健全化の意思や財政規律の堅持を明確に示すことはもとより、国債の発行にあたっては今まで以上に市場参加者との丁寧なコミュニケーションが重要だ」

――国債での資金運用について。

「10年債を中心に1.6%台後半から現状の1.9%台半ばまで利回りが上昇してきた過程で、打診的なポートフォリオの復元を徐々に進めてきた。今後2.0%を超えてくる局面では、金利水準が切り上がるのに合わせて、10年債を軸とした復元ペースも徐々に引き上げていく方針だ」

「現状の極めて抑制された残高・リスク量にとどまるポジション運営を踏まえると、銀行を中心に、グループの潜在的な購入余力はまだ相応にある」

(植竹知子、浦中美穂、山崎牧子、山口貴也 編集:石黒里絵)

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