ニュース速報
ビジネス

アングル:米製薬会社、中国企業開発の新薬候補に熱視線 ライセンス契約急増

2025年06月22日(日)08時03分

 6月16日、 米国製薬会社が同業の中国企業から新薬候補のライセンスを取得する事例が急増している。写真は様々な錠剤やカプセルを手にする人。2013年9月撮影(2025年 ロイター/Srdjan Zivulovic)

Sriparna Roy Sneha S K

[16日 ロイター] - 米国製薬会社が同業の中国企業から新薬候補のライセンスを取得する事例が急増している。最安で8000万ドル(115億円)程度の前払い金投資を、数十億ドル規模の治療薬に発展させられる可能性に賭けている。

米製薬会社が中国企業とのライセンス契約締結を急ぐ背景には、今後10年以内に特許切れとなる2000億ドル相当の医薬品に代わる新たな製品の開発を迫られているという事情があり、専門家はこうした流れは今後も続くとみている。

ロイターが独占入手したグローバルデータの資料によると、米製薬会社による中国企業とのライセンス契約締結は年初から6月までで14件と、前年同期の2件から大幅に増加した。契約の支払い総額は全体で183億ドルに上る可能性がある。

みずほ証券のアナリスト、グレイグ・スバナベイ氏は「米製薬会社は中国から非常に質の良い新薬候補を、米国内で同等の製品を探すよりもはるかに手頃な価格で入手できる」と話す。

グローバルデータによると、過去5年間で米国内におけるライセンス契約の総コスト(前払い金と目標の達成に基づく後払い金の合計)は平均848億ドル。これに対して中国企業とのライセンス契約の総コストは313億ドルにとどまる。

ライセンス契約を結ぶと医薬品や関連技術を開発・製造・商用化する権利を得られる。最初に製造・販売されたとき、一定期間における目標販売額を達成したときなど、あらかじめ定められた目標の達成に基づいた「マイルストーン」で支払う仕組みにより、開発リスクが軽減できる。

調査会社サイトラインの3月のリポートでは、現在世界の新薬開発における中国の割合は約30%。一方、米国のシェアは1ポイント低下して約48%となっている。

中国企業は、肥満、心疾患、がんなどの治療薬になり得る、実験段階の医薬品候補を米製薬会社にライセンス供与している。中国政府による製薬・バイオテクノロジー分野への豊富な研究開発投資の成果を反映した格好だ。

ジェフリーズのアナリストは5月のメモで、これまで最も一般的に中国企業からライセンス供与されてきたのは経口薬などの低分子薬(分子量が比較的小さく、化学合成によって作られる医薬品)だったが、最近はがんの標的療法やファースト・イン・クラス(画期的な)医薬品など新しい治療法へのシフトが顕著だと指摘した。

マッコーリー・キャピタルのアナリスト、トニー・レン氏は「中国のバイオ企業は日々、バリューチェーンの上流へと移行しており、西側の同業他社にとって脅威になりつつある」と、中国企業の台頭に危機感をにじませた。

ライセンス契約増加のあおりで、従来型のM&A(合併・買収)は減少しており、ディールフォーマ・ドット・コムがまとめた、この分野の年初来のM&A件数はわずか50件と、前年比20%減っている。

レイモンド・ジェームズのバイオテック投資銀行部門責任者のブライアン・グリーソン氏は、2024年に大手製薬会社がライセンス供与を受けた資産のおよそ3分の1が中国発で、今後この割合は40-50%に高まると予測。「こうした動きは今後ますます加速する」と言い切った。

トランプ米政権は現在、製薬分野への関税導入の是非を検討すべく国家安全保障の観点から調査を進めている。しかしある医療業界アナリストは、大統領の関税に関する権限は法律上、「モノ」に限定され、知的財産は明確に除外されていることから、こうしたライセンス契約は今後も継続すると予測する。

米医薬品大手ファイザー5月に中国のバイオ医薬品会社、三生製薬との間でがん治療薬の開発・製造・商用化に関するライセンス契約を結んだと発表した。前払い金は12億5000万ドルだが、製品化に成功すれば支払い額は最大60億ドルに達する可能性がある。

6月にはリジェネロン・ファーマシューティカルズが、中国の翰森製薬と肥満治療薬のライセンス契約を結んだ。前払い金は8000万ドルで、将来的な支払い額は最大20億ドルに達する。

<時間と費用を節約>

新薬候補のライセンス供与を受けることで、欧米の製薬会社は自前で開発するよりも時間と費用を大幅に節約し、素早く有望な新薬候補にアクセスできるとアナリストたちは指摘する。

米国に拠点を置く製薬開発企業ヌベーション・バイオは2024年に中国企業アンハート・セラピューティクスを買収し、がんの新薬候補へのアクセスを得た。この薬は先週、米国で承認を受けた。

ヌベーションのデイビッド・ハン最高経営責任者(CEO)は「われわれにとって中国に拠点を持つことは、研究開発の有力な手段であるだけでなく、さらなる有望資産を入手して事業を拡大し、より優れた新たな治療法を患者に届けるための近道でもある」と話す。

EYのアナリスト、アルダ・ウラル氏も「中国の魅力は、コストがわずかで済むこと、そして時間が何倍も早いことだ」と、中国企業とのライセンス契約の意義を強調した。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:独極右AfDが過激路線修正、現実主義へ転

ワールド

米上院、大統領警備隊の規律を批判 トランプ氏暗殺未

ビジネス

日銀、民間金融機関から買い入れた株式の売却を10日

ワールド

原油先物は小幅続伸、ロシア巡るトランプ氏の「重大声
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 2
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    ただのニキビと「見分けるポイント」が...顔に「皮膚…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 8
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中