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アングル:米輸入企業、「保税倉庫」確保に奔走 トランプ関税の先行きに不透明感

2025年05月25日(日)07時52分

 5月21日、中国から米国に商品を輸入する企業は、実際に商品を販売するまでトランプ米大統領の関税を支払わずに保管しておけるよう、「保税倉庫」の確保を急いでいる。写真は「保税倉庫」扱いになっているフロリダ州ベニスのコンテナ保管施設で20日撮影(2025年 ロイター/Octavio Jones)

Richa Naidu

[ロンドン/ニューヨーク 21日 ロイター] - 中国から米国に商品を輸入する企業は、実際に商品を販売するまでトランプ米大統領の関税を支払わずに保管しておけるよう、「保税倉庫」の確保を急いでいる。

保税倉庫は、関税を直ちに払うことなく輸入品を保管しておける倉庫で、米国には現在1700以上ある。中国からの輸入品には現在30%の関税が課されているが、保税倉庫から商品が出荷された時点で関税を支払えばよい仕組みになっている。このため、貿易政策が極めて不安定な現在、企業はより効果的な資金管理が可能になる。

一部の企業にとって保税倉庫の確保は、トランプ政権による関税引き上げが一時的に終わるとの予想に基づく賭けだ。

業界関係者4人によると、保税倉庫の多くは現在満杯で、利用料金は急騰。企業は米税関・国境取締局(CBP)に保税スペースの拡大を申請している。

物流企業LVK・ロジスティクスのマギー・バーネット最高経営責任者(CEO)は、「関税対応」としてユタ州の倉庫を保税化するための手続きを進めていると明かした。手続きには3―4カ月かかる見込みだという。

S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスのサプライチェーン研究チームを率いるクリス・ロジャース氏は「ほぼどこでも保税化は可能だ。資金と時間がかかるが、大手企業で関税が長期化すると見込む場合、既存のスペースを保税倉庫に転換できる」と語った。

物流調査会社ウエアハウスクオートのソリューション部門担当副社長、クリス・ヒューワルト氏は、CBPへの申請手続きは昨年であれば数カ月で完了していたが、現在は最大6カ月超も滞っていると指摘する。

同氏によると、保税倉庫としての認定を取得するコストは「数千ドルから6桁まで」で、倉庫の所在地や企業の財務状況などによって異なる。

トランプ氏が関税政策を二転三転させているため、保税倉庫の持つ柔軟性は企業にとって魅力的だ。

トレード・フォース・マルティプライヤーの出荷コンサルタント、シンディー・アレン氏は、中国から輸入する多くの企業は保税倉庫を活用してキャッシュフローを支えていると説明。「倉庫から商品を出荷する際には関税を支払う必要があるため、コスト削減になるとは限らない。ただ、販売の都度、小口で関税を支払うことが可能になる」と述べた。

CBPは、新たな規制や大統領令を遵守するために保税倉庫を利用することへの関心が高まっていることは承知しているとした。

ホワイトハウスはコメント要請に即座に応じなかった。

<前例のない倉庫ラッシュ>

ウエアハウスクオートのデータによると、2024年早期には保税倉庫の賃貸料は標準的な倉庫の約2倍だったが、今年に入ると標準的な倉庫の4倍に跳ね上がった。

トレード・フォースのアレン氏は「キャッシュフローを円滑にするために保税倉庫に殺到する現象は前例がない」と語った。

トランプ政権1期目に、多くの企業は中国への関税をそのまま受け入れた。しかし、結果として企業は多額の関税支払いが長期間続くと同時に、中国に代わる供給元への投資を余儀なくされた。輸入業者は「過去の過ちを繰り返したくないのだ」とアレン氏は話す。

新たな保税倉庫の設置はリスクを伴う。米政府は90日間の猶予期間終了後、高関税政策に戻る可能性があるからだ。

保管会社カーゴネストの共同創業者、ウラジミール・デュルシュペク氏は、米国の関税交渉が完了するまで第3の保税倉庫を追加すべきかどうか検討している。「避けたいのは、急いで容量を増やしてその後状況が変わることだ」

保管会社DCL・ロジスティクスは、保税倉庫に関する計画を決めかねている。最高収入責任者のブライアン・トゥ氏は、「需要がこのまま高水準を維持するかどうか定かではないからだ」と話す。

ウエアハウスクオートのマーケティングディレクター、ジェイコブ・ローズバーロウ氏は「多くの倉庫が保税ステータスを取得できるころには、追加関税が撤回され、保税スペースの需要が無くなっている可能性もある」と述べた。

ロイター
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