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大規模緩和が金融機関の収益圧迫=宮野谷・日銀理事

2017年12月25日(月)16時41分

 12月25日、日銀の宮野谷篤理事(写真)はロイターとのインタビューに応じ、マイナス金利を含むこれまでの大規模な金融緩和政策が資金利ざやの縮小を通じて、金融機関の収益を大きく圧迫していることは間違いないと語った。写真は都内で22日撮影(2017年 ロイター/Issei Kato)

[東京 25日 ロイター] - 日銀の宮野谷篤理事はロイターとのインタビューに応じ、マイナス金利を含むこれまでの大規模な金融緩和政策が資金利ざやの縮小を通じて、金融機関の収益を大きく圧迫していることは間違いないと語った。全国的な人口・企業数の減少という構造問題を背景とした金融機関間の競争激化が続けば、中長期的に多くの地域金融機関が赤字になり、地域の金融仲介機能が低下するリスクにも言及した。

もっとも、現時点で金融機関は充実した自己資本を有しており、金融仲介機能は円滑に働いているとし、現在のイールドカーブ水準も金融機関経営を過度に圧迫してはいないとの認識を示した。

宮野谷理事は、金融システムの維持に関する企画・立案や考査などを担う金融機構局を担当している。インタビューは22日に行った。

日銀は2013年4月に量的・質的金融緩和に踏み切って以降、16年1月にはマイナス金利政策を導入するなど大規模な金融緩和政策を5年近くにわたって継続し、金利を極めて低い水準に抑え込んでいる。

宮野谷氏は、金融緩和政策が金融機関経営に与えている影響について「マイナス金利を含む既往の金融政策が、資金利ざやの縮小を通じて金融機関収益を大きく圧迫していることは間違いない」と語った。

ただ、現時点ではほとんどの金融機関が当期純利益で黒字を確保し、充実した自己資本を有しているとし「金融仲介機能は円滑に働いており、金融システムの安定は維持されている」と言明。現行のイールドカーブ・コントロール(YCC)政策における短期金利マイナス0.1%、長期金利ゼロ%程度という誘導目標も「過度に金融機関経営を圧迫しているとは考えていない」との認識を示した。

日銀が掲げる物価2%目標の実現が遠い中で、超低金利政策は今後も続く。宮野谷氏は、現在の低金利環境が長期化した場合、「金融機関の基礎的な収益力が一段と弱体化する」と指摘。

特に収益の大部分を国内業務に依存する地銀など地域金融機関は、人口や企業数の減少という構造問題を背景に金融機関間の競争が激化しており、中長期的には多くの地域金融機関が「同時に赤字になり、各地域の金融仲介機能が低下するリスクも否定できない」と警告した。

地域金融機関に対して「景気が良く、自己資本基盤も厚い今の時点から、収益力向上に取り組んでいく必要がある」とし、貸出サービスの差別化や手数料収入確保に加え「経営の効率性を高め、生産性を向上させることが急務」と強調。日銀として「考査やモニタリングだけでなく、セミナーや説明会などを通じて金融機関の収益管理力、経営効率性を高める取り組みをサポートしていきたい」と語った。

地域金融機関の合併・統合も「収益性や効率性を改善させるための選択肢の1つ」との見解を示した。

本業収益力の低下に苦しむ金融界からは、マイナス金利を始めとした超低金利政策に対する批判が根強いが、宮野谷氏は「金融政策はいずれ正常化するが、人口、企業数が減り続ける構造要因は変化しない」と指摘。

金融機関の過当競争が続く中で、市場金利が上昇しても「貸出金利の引き上げが十分に進まず、利ざやが思ったほど改善しない可能性がある。以前の良好な収益環境に戻れるわけではない」とし、金利環境の変化も見据えたリスク管理が重要とした。

また、政府系金融機関について、民間金融機関が与信可能な優良企業にも貸出を行っているのが実態とし、「貸出競争を激化させる一因になっている」と苦言。政府系金融機関は協調融資や利子補給などで対応し、民業補完に徹するべきだと強調した。

(伊藤純夫 編集:田巻一彦)

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