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アングル:「スイスメイド」表記の新ルール、時計業界に激震
スイスのラ・ショードフォンの時計部品メーカーの作業場で2016年4月撮影(2017年 ロイター/Denis Balibouse)
Silke Koltrowitz
[チューリヒ 6日 ロイター] - もしあなたが、スイスですべて製造されたものだと信じて「スイスメイド」の時計を買うなら、それは間違っているかもしれない。
文字盤やサファイアガラス、ケースなどの部品製造会社が中国やタイ、モーリシャスで急増しており、こうした部品が「スイスメイド(スイス製)」と記された時計の多くに組み込まれている。
文字盤に書かれた「スイスメイド」の表記に高額のプレミアムを払う消費者のため、より厳格なルールが今年導入された。
製造コストの6割に当たる部分がスイスで行われたことが、「スイスメイド」と表記するための新たな条件の柱だ。これまでは、時計の駆動部分であるムーブメントの5割以上がスイス製であれば足りたが、その条件が引き上げられた。
新たなルール導入の目的は、スイス製ブランドに対する消費者の信頼を高め、時計業界をアジア勢の攻勢から守ることだ。
だが、ルール変更により、手ごろな価格帯のスイス時計メーカーは、コスト削減によって不況を乗り切ることが困難になった。一方で、高級時計メーカーにとっては、利益率を守るため、部品供給の大部分をアジアに移転する抜け道が残されている。
「スイスメイド規制が強化されてから、注文は増えるどころか減っている。顧客のなかには、部品の半分を中国で製造して価格を下げるよう要請してきたところもある」と、時計産業の盛んなル・ロックルを拠点とする文字盤メーカー「メタレム」のアラン・マリエッタ氏は語る。
マリエッタ氏は、顧客を失うことを恐れつつも、自身の原則を守っていると言う。「スイスで製造した本物のスイスメイドを提供したい。さもなくば、ここの時計産業で働く人にとって、緩慢な死を意味するだろう」
<コスト圧力>
手ごろな価格のブランドは、スイスで利益を出すことに苦戦している。人件費が高く、利幅が薄い上、スマートウオッチなど海外勢の厳しい攻勢にさらされて価格を上げられないためだ。
冠城鐘表珠宝(シティチャンプ)<0256.HK> の「ロータリー」ブランドは、これまで数十年にわたって「スイスメイド」のラベルを使ってきたが、最新のコレクションからは、これを名乗る時計が消えた。新たなルール導入で、価値と品質の両立が難しくなったためだ。
幅広い価格帯の時計を提供しスイス国内に多くの製造拠点を持つスウォッチ・グループ
大衆価格の「スイスメイド」時計分野では、競合相手が近々いなくなるかもしれない、と同社のニック・ハイエック最高経営責任者(CEO)は最近の新聞インタビューで述べている。
スイス国鉄のオフィシャル鉄道時計など、人気モデルを手掛ける時計会社モンディーンのロニー・ベルンハイム氏は、新基準を満たさない一部モデルを廃盤にしたという。
スイス時計協会の統計によると、小売り価格が600フラン(約6万8000円)以下の時計輸出は、2017年1─10月に前年同期比で11%超下落した。対照的に時計全体の輸出は2.4%伸びている。
時計産業はスイス輸出の約10%を占め、5万7000人近くを雇用している。
「スイスメイド」の要件を満たしつつ、最大限の外国製部品を取り入れた時計に特化したメーカーも誕生している。
例えば、 EOS Watch Developmentは自社サイトで、スイスとアジアのサプライヤーの部品を合わせた時計を作ることで、価格を抑えた「スイスメイド」製品を提供するとうたっている。
<高級ブランドにも嵐>
数万ドルの高級時計を扱うブランドは、需要の急激な落ち込みによって、近年は利益が大幅に低迷している。
高級ブランドのリシュモンや、幅広い時計を扱うスウォッチ・グループの収益性は、売上げ増加もあり回復してきている。だが、コスト削減の圧力は続いている。
「高級ブランドの中には、国外からの部品調達を一度も検討したことがない社もある。倫理上の理由からだが、同時に販売価格が過剰に高額で利幅が厚く、余裕があったからでもある」と、スイスの文字盤製造メーカー関係者は話す。
「需要が減速し、ほぼすべてのブランドが製品の見直しを余儀なくされている。部品の一部を国外調達することで利益率を改善するよう明確に定めた今回の新ルールは、彼らに有利だ」と、この関係者は付け加えた。
この文字盤メーカーでは、主な製造工程を賃金の安いモーリシャスで行っているが、技術工程の一部をスイスで実施しているため、「スイスメイド」の要件を満たしているという。
複数の関係者によると、ほぼ全てのケース製造会社が、アジアから輸入したサファイアガラスを使っているという。
高級時計メーカーはおおむねサプライヤーを公表していないが、最近では、このような透明性の欠如を批判する動きも出ている。
サプライヤーから時計メーカーに転じたフランソワ・オーブリーは最近、「99.99%スイス製」をうたう時計を発売し、全サプライヤーを公表した。また、新興の「スイスCODE41」は、ほぼ中国製の部品の全てに透明性を持たせた時計プロジェクトの実現に向け、クラウドファンディングで54万3000フランを調達した。
スイス時計協会は、「スイスメイド」規制が守られない場合は介入するとしており、特に移行期間が終了する2018年末以降に備えてルールの順守状況を監視する特別チームを設けることを決めた。
だが、中には業界のシステムに見切りをつけた社もある。
高級ブランドH・モーザーは、自社製品は95%以上スイス製部品を使っていると宣言しつつも、「スイスメイド」表記を今後使わないことを今年決めた。同社は、今回導入されたルールは「寛容すぎて何の保証もなく、混乱を生じさせて悪用を招くだけだ」と批判している。
(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)