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焦点:消費増税の使途変更に賛否、財政規律の歪みに懸念も

2017年09月25日(月)18時55分

 9月25日、安倍晋三首相は、臨時国会冒頭の28日に衆院を解散する意向を表明すると同時に、2019年10月に実施する消費増税分の使途変更を訴えた。子育て支援などで2兆円規模の新たな対策を年内に策定し、来年度以降の予算に反映させたい考えだが、専門家の間では賛否両論が噴出している。写真は内閣官房参与の藤井聡氏。8月撮影(2017年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 25日 ロイター] - 安倍晋三首相は25日、臨時国会冒頭の28日に衆院を解散する意向を表明すると同時に、2019年10月に実施する消費増税分の使途変更を訴えた。子育て支援などで2兆円規模の新たな対策を年内に策定し、来年度以降の予算に反映させたい考えだが、専門家の間では賛否両論が噴出している。

具体的な制度設計は10月22日投開票の衆院選後になるが、借金頼みの政策運営に傾けば、財政規律の緩みだけが際立つことになりかねない。

安倍首相は25日、衆院解散の理由の1つとして消費増税時の使途変更を掲げ「人づくり革命」「生産性革命」を推進する考えを示した。増税の使途変更に伴い、2020年度としていた基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化の時期を事実上先送りすることも正式に表明した。

これに対し、与党や党に近い専門家からは「一定の評価をしたい」(京都大大学院教授、内閣官房参与の藤井聡氏)との声が出ている。

藤井氏は、もともと増税によって得られた税収を借金返済に充てることに否定的な立場。

先に実施したロイターとのインタビューでは「増税分の一部を借金返済に充てるということであれば、成長に巨大なブレーキがかかる。教育や社会保障だけにとどまらず、増税分はワイズスペンディング(賢い支出)につなげなければならない」と指摘し、15兆円規模の大型補正予算が必要と訴えた。

一方、政府の財政制度審議会で会長代理を務める池尾和人・慶應義塾大経済学部教授は、増収分の使途変更によって財政健全化が遅れ、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年には、社会保障サービスのカットを迫られるなど、財政問題がさらに深刻化しかねないと警鐘を鳴らす。

池尾氏は、ロイターの取材に対し、現在の中福祉・低負担の社会保障制度を全世代が一定の痛みを分かち合うかたちで持続可能なものに見直すことが急務だが、安倍政権の取り組みは逆行していると指摘。

「黒字化目標は先送りせざるを得ない状況になっているが、人口動態問題のダイナミズムは止められない。財政赤字が拡大した場合、社会保障サービス、例えば介護が放棄されるといった事態が起こりかねない」と話す。

一方、東京市場では、使途変更やPB黒字化目標の先送りが先行して報道され、市場では「織り込み済み」(国内関係者)との声が大勢。

ただ、現実に2019年10月の税率引き上げが迫ってきた段階で、PB黒字化の時期先送りが意識されれば「その段階で金利上昇圧力がかかるリスクもある」(別の国内関係者)との予測もあり、財政規律の緩みへの警戒感が市場から消え去ったわけではなさそうだ。

*写真を追加します。

ロイター
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