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焦点:自民選挙公約に教育機会均等、国立大授業料ゼロ構想も

2017年09月20日(水)18時12分

 9月20日、自民党は衆院選の公約に「教育の機会均等」を盛り込む方針だ。写真は東京大学の安田講堂、昨年7月撮影(2017年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 20日 ロイター] - 自民党は衆院選の公約に「教育の機会均等」を盛り込む方針だ。現在党内では、国公立大授業料分を一律無償化し私立大の学生にも追加的に負担軽減を図るため、「出世払い型拠出金制度」を有力案として検討中。学生の負担感が少ない上、卒業後の収入から少額ずつ源泉徴収するため政府の実質財政負担も年間数千億円程度に収まるという試算もある。同党教育再生本部は、財政膨張の回避と教育の機会均等を両立させる手法だとしている。

<解散間近、公約の具体化急ぐ>

自民党筋によると、10月22日投開票とみられている衆院選の選挙公約には「教育の機会均等」という文言を盛り込む方向。28日の臨時国会召集日に衆院が解散される見通しのため、内容を早急に詰めるとしている。

また、教育機会均等に回す財源の確保に関連し「8%から10%への消費増税分5兆円のうち、教育に回す分を増額することは安倍首相も承知している」(自民党筋)という。

安倍晋三首相は、11日の「人生100年時代構想会議」で、大学教育について「給付型奨学金や授業料の減免措置の拡充強化を検討する」と発言した。

財政的事情などから「一律無償化」という考え方は後退したが、大学で学ぶ意思のある学生の機会を失わせないようにするため、債務を負わせない形で授業料負担を軽くしようとの意図がうかがえる。

同党の教育再生実行本部の文科相経験者らが中心となって、授業料の減免幅拡大に向け、オーストラリアで導入済みの出世払い型拠出金のシステムを参考に検討を進めている。

この制度では、国公立大に通う学生の授業料は全額を政府で負担する。例えば、国立大の年間授業料53万円(平均)の負担額はゼロになる。

また、私大は同100万円前後(平均)だが、負担額は国立大授業料との差額47万円のうち、半額を国が負担。学生の実質負担額は23万5000円になる計算だ。

学生は卒業後、一定の年収(例えば300万円超)に達した場合、月収の一定割合ないし定額を月額給与から差し引かれ(源泉徴収)、返済していく仕組み。現在導入されている所得連動型奨学金では、毎月の返済額は最低2000円となっている。

金融機関が提供している住宅ローンのように複利で利子を取りようなことはなく、無利子を原則とし、あらかじめ返済期間を定めない。

すでに導入されているオーストラリアでの返済率を勘案し、約80%が完済されることを前提に制度設計していくという。

同本部の構想では、制度のスタート当初は一定の拠出を財政資金で用意。将来は返還を財源に充てる。

<既存の奨学金、一部廃止の可能性>

同本部関係者は今年8月、オーストラリアを訪問し、出世払い型拠出金制度の実態を視察した。参加した渡海紀三郎・元文部科学相は「奨学金と違って国が授業料を出す仕組みであり、学生本人が債務を負うことはなく、保証人を立てる必要もない。卒業生の責務は所得の範囲で可能な費用弁償を行うのみで、債務不履行は発生しない」と説明。「経済的理由によらず、機会均等が確保できる」とメリットを指摘した。

同本部は所要財政資金の規模について、援助の程度により年間1.8兆円程度から3.7兆円程度など、複数のケースを検討中。8割程度の返済を前提にすれば、実質的な財政負担は年間3000億円強─5000億円との試算もある。

財源は、19─22歳の子を対象とする特別控除(約900億円)の廃止、既存の奨学金制度の一部廃止などで、年間1000億円─2000億円の財源確保で済むとの見通しもある。

一方、将来の返済が本格化するまでの当初数年間は、年間で1兆円単位の資金を確保する必要があり、その財源の調達方向など「年末までに党内で結論を出す」(渡海氏)見通しだ。

(中川泉 編集:田巻一彦)

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