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焦点:足元の人民元高に懐疑的、根強い市場の先安観

2017年08月17日(木)11時40分

 8月15日、人民元の下落を見込んでいた市場参加者は今年、中国当局の政策変更と介入によって見事に鼻を明かされた。それでもなお多くのトレーダーや投資家は、来年は元安/ドル高が進むとの予想を変えていない。写真は人民元と米ドルの紙幣。サラエボで5月撮影(2017年 ロイター/Dado Ruvic/Illustration)

[上海 15日 ロイター] - 人民元の下落を見込んでいた市場参加者は今年、中国当局の政策変更と介入によって見事に鼻を明かされた。それでもなお多くのトレーダーや投資家は、来年は元安/ドル高が進むとの予想を変えていない。

こうした人々は、政治的に重要な秋の共産党大会が終わり、習近平国家主席が想定通り権力基盤強化に成功した後は、人民元が軟化する余地が出てくると主張する。

またこの3カ月間、つまり2014年以降で最も長く元が対ドルで堅調に推移しているにもかかわらず、元高が本物かどうか懐疑的な見方が多い。ANZ銀行(上海)の市場エコノミスト、デービッド・クー氏は「人民元が上昇基調に戻ったとは思っていない」と語り、近年の全般的な元安の流れが根本的に逆転したとの意見には否定的だ。

ロイターが3日に外為アナリストを対象に実施した調査では、ドル/元相場は半年後に6.85元、1年後に6.9元と、足元の6.6715元から弱含むとみられている。

人民元は昨年の下落率が約6.5%と、中国が為替レートを一本化した1994年以降で最大となった。

今年は対照的に4%の元高を記録しているが、ドルが他の主要通貨に対しておよそ9%下げている点を踏まえれば、本来はもっと元が値上がりしてもおかしくないとの声もある。

ただ、為替リスクを警戒する企業が元高を抑える役目を果たしている。上海のある地方銀行の外為トレーダーは「今の水準でドルを購入しているわれわれの法人顧客の半数は、足元の元高がドル安と人民銀行(中央銀行)の介入の結果であると考え、依然として元先安観を崩していない」と述べた。

実際、元の実効レートは今年初め以降で1%強下げており、ドル/元相場が示唆する以上に通貨価値は低いことがうかがえる。

<ドル買い意欲>

UBS(香港)のチーフエコノミスト、ワン・タオ氏によると、今年に入って元が強いのは、ドル安、中国経済の改善とともに、資本流出に対する締め付け強化が効いているからだ。

ワン氏は「資本流出を促す基本的な要素は健在だ。家計や企業の間では海外資産や外貨に自分の資産を分散投資したいという意欲はなお強く、国内資産のバブルや高水準の債務を巡る懸念も大きいままだ」と指摘した。

市場がドルを欲しがっている兆しはまだある。例えば人民元の毎日の引け値は一貫して人民銀行が設定するその日の基準値を下回っている。これは5月に当局が不可解な基準値算出方法の見直しを実施した後も変わりはない。6月1日から今月14日までの53営業日を見ると、44日で引け値の方が基準値よりも低かった。

一方、人民元の下押し圧力が高まる可能性がある、と話すのはBNPパリバ(上海)のローカル市場戦略責任者シャン・クン氏だ。

クン氏は「企業や金融機関が近いうちに元が強くなり過ぎていると判断し、ドル建て資産の保有拡大を再開して、ドル買いを活発化させるのではないかと懸念している」と述べた。

人民銀行のデータによると、家計と企業の外貨預金残高は今年に入ってじりじりと増加し、6月末時点は7931億ドルと前年同期を20.9%上回っている。

デリバティブも人民元の先行き下落を示唆している。市場の見通しを最も適切に反映しているとみられる1年物ドル/元NDF相場は14日、6.8205元まで元安が進むと想定されていることを示した。これは同日の基準値より2%強低い水準だ。

みずほ銀行(香港)のシニア・アジアFXストラテジスト、ケン・チュン氏は「人民元は引き続きドル高方向の調整に対して脆弱だろう。ドルに反発の可能性があれば、元に及ぼす影響は相対的に大きくなる」と説明した。

(Winni Zhou、John Ruwitch記者)

ロイター
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