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焦点:新日銀委員が現行政策支持、注目されるボードのバランス

2017年07月25日(火)19時32分

 7月25日、日銀の最高意思決定機関である政策委員会のメンバーが入れ替わった。写真は就任会見に臨む片岡剛士氏(右)と鈴木人司氏。都内の日銀本店で撮影(2017年 ロイター/Issei Kato)

[東京 25日 ロイター] - 日銀の最高意思決定機関である政策委員会のメンバーが入れ替わった。大規模緩和に反対してきた木内登英氏、佐藤健裕氏に代わり、リフレ派の論客である片岡剛士氏とメガバンク出身の鈴木人司氏が就任。25日の就任会見で、両氏は現行のイールドカーブ・コントロール(YCC)政策への支持を表明した。

好調な世界経済を背景に物価が上がり出した場合の対応や、反対に大きなショック発生で緩和強化が必要になったケースでどのような議論が展開されるのか、市場も新メンバーの今後の議論の展開を議事要旨や政策委員会メンバーの講演や会見などで探っていくとみられる。

2人の前任者は、日銀が資産買い入れを年間50兆円から80兆円に拡大した2014年10月の追加緩和決定以来、日銀の政策に反対票を投じてきた。「野党的な委員」の退任により、市場では今後の政策運営について、全員一致の決定が続くのではないかとの見方が多い。

実際、就任会見では短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度に誘導するYCC政策について、鈴木氏は「イールドカーブ下押しによる緩和的環境の実現に間違いなく成功している」と指摘。片岡氏も「量のみ、金利のみにこだわるということではないと思う」と柔軟な見解を示した。

当面は日銀の政策変更がないとみられているものの、中長期的な観点からみると、新メンバーの動向によって、日銀の政策スタンスに影響が出る可能性もある。

例えば、今後の経済・物価動向に関し、1)景気は現状程度で物価が上がらないケース、2)景気が強くなり、物価が上がり出すケース、3)世界経済にショックが発生し、デフレ危機が再燃するケース──を想定すると、以下のようなことが考えられる。

1)のケースでは、物価が上がらないため、長期金利がジリジリと下がり出すことも想定される。その際、日銀は長期金利がゼロ%から大幅にマイナスかい離しないよう、国債購入量を減少させるとみられるが、その時に片岡氏がどのような意見を表明するのか注目される。

2)のケースで、実体経済の好調さと相まって物価が上がり始めた場合、市場では日銀の出口戦略に注目が集まり出すとみられるが、岩田規久男副総裁、原田泰審議委員と片岡氏が、どのような見解を示すかによって、政策の方向性に大きな影響が出そうだ。また、市場動向に詳しい鈴木氏の見方が、政策委員会の議論の流れを変える可能性もある。

3)のケースでは、思い切った緩和策が議論されるとみられるが、マイナス金利の深掘りに重点を置くのか、それとも量の拡大に回帰するのかなど片岡氏や鈴木氏の見解によって、政策委員会の意見のバランスが変わることも予想される。

一方、木内、佐藤両氏は、成長率見通しや物価見通しに関し、他の7人のメンバーに比べ、相対的に弱めの見通しを出していたとみられる。展望リポートに盛り込まれる見通しの中央値が、これまでに比べて上方修正されるかなども関心を呼ぶ可能性がある。

片岡氏は前職の三菱UFJリサーチ&コンサルティング時代から、量的緩和と増税への慎重なスタンスを旗頭とするリフレ派の理論を展開。14年には、消費増税を判断する有識者委員として増税延期を主張した経緯がある。

三菱東京UFJ銀行で副頭取を務めた鈴木氏は、16年6月に退任した三井住友銀行出身の石田浩二氏以来のメガバンク出身者となる。

銀行では市場部門を中心に歩み、市場部門長として市場性収益の拡大に貢献するなど市場動向に精通。YCC政策が、金融機関の収益や市場機能に及ぼす影響について豊富な知見を有しているとみられている。

鈴木氏は会見でも、超緩和策により金融機関への収益の影響は「相当程度ある」と指摘しつつ、そのことにより「金融システムとして、どうということはない」とも述べた。

市場では、超緩和策の長期化がもたらす副作用について、現場感覚の議論も期待されている。

就任会見では、両氏とも物価2%目標には距離があることを認めながらも、目標実現は「重たい責任で、私の使命だ」(片岡氏)と述べた。

(竹本能文、伊藤純夫 編集:田巻一彦)

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