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焦点:早さより味重視、マクドナルドが賭ける生肉使用バーガー

2017年06月23日(金)11時58分

 6月20日、マクドナルドの人気ハンバーガー「クォーターパウンダー」に生の牛肉を使用し、注文してから作るという新たな試みは、商品の質を向上しようとする同社の対策の1つだ。写真は同商品の広告。米テキサス州で4月撮影(2017年 ロイター/Liz Hampton)

[ロサンゼルス/ダラス 20日 ロイター] - トレーシー・ムーアさんは、米テキサス州ダラスのマクドナルドで注文した人気ハンバーガー「クォーターパウンダー」を駐車場で待つのにしびれを切らしていた。

生の牛肉を使用し、冷凍パテで作られていた従来のものよりもアツアツでジューシーだと宣伝されている新クォーターパウンダーは、よりおいしい商品を提供しようとするマクドナルドの取り組みの一環だ。

だが約4分が経過し、頭から湯気が立ち上がってきたのはムーアさんの方だった。ドライブスルーで新クォーターパウンダーを注文した他の客と同様、ムーアさんも駐車場で待つよう店員から言われたのだ。

「毎回、こんなに長く待たされるのなら、もう注文しない。ほかへ行く」とムーアさんは話す。ムーアさんは毎朝、マクドナルドのドライブスルーに寄ってコーラを買い、店舗でもよく食事をする。

提供時間の早さと味を両立させることは、ライバルから顧客を取り戻そうとしているマクドナルドにとって大きな課題だ。

クォーターパウンダーに生の牛肉を使用し、注文してから作るという新たな試みは、商品の質を向上しようとするマクドナルドの対策の1つだ。同社は3月、この新製品を一部店舗で試験的に導入しており、2018年半ばまでには全米の店舗で提供すると発表した。

しかし、このような取り組みが成功するかどうかは、ムーアさんのような常連客を満足させられるかにかかっている。スピード重視のドライブスルー利用客は、米国売り上げの7割を占めるからだ。

生の牛肉は冷凍パテよりも早く火が通るにもかかわらず、注文してから作るクォーターパウンダーが顧客の手にわたるまでに要する時間は、従来よりも1分ほど長い、とレストランのマネジャーやアナリストは指摘する。

ファストフード業界では1秒の差が物を言う。広く注目されているある調査によれば、マクドナルドのドライブスルーのスピードはすでに一部の大手ライバル企業に後れを取っている。マクドナルドはそのようなデータを公開していないが、同社幹部は今年に入り、提供時間が遅れているとロイターに語っていた。

とはいえ、同社の米ハンバーガー売り上げで約4分の1を占めるほど人気を誇るクォーターパウンダーに対して、マクドナルド首脳陣は強気姿勢を崩さない。先月行われた投資家向け説明会で、スティーブ・イースターブルック最高経営責任者(CEO)は、新戦略に伴う困難は予想されたほどではないと語った。

一方、業界経験者の一部は懐疑的な見方をしている。

常連客にとって利便性こそ最も重要であり、もしスピードが悪化すれば、彼らは他の店に行くかもしれない、と南カリフォルニアのマクドナルドフランチャイズ加盟者からコンサルタントに転身したリチャード・アダムスさんは指摘する。

「注文を受けてから調理するとなると、提供時間は遅れることになる」とアダムスさんは語る。

生の牛肉を使用したバーガー導入時、マクドナルドの厨房ではすでにプレッシャーが高まっていた。

アダムスさんによると、店員たちはすでに、最近米国で導入された新しい「シグネチャー・クラフテッド」メニューに戸惑いを見せていた。同メニューでは、客が肉やパンの種類、トッピングを選ぶことができる。全米店舗に拡大されるにつれ、同メニューのクォーターパウンダーにも生の牛肉が使用される。

マクドナルドの調理担当は、セルフレジ導入やモバイル注文の推進によって、今後一段と負担を強いられる可能性がある。こうしたテクノロジーは注文時間を短縮する一方で、ピーク時には注文が殺到するという新たなボトルネックをもたらしかねない。コーヒーチェーン世界最大手の米スターバックスはすでにそれを経験済みだ。

<新鮮さかスピードか>

クォーターパウンダーのリニューアルは、創立60年のマクドナルドを現代化し、4年連続で減少している客足を取り戻すため、イースターブルックCEOが打ち出した最も新しい対策だ。

これはまた、ウェンディ―ズやワタバーガー、イン・アンド・アウト・バーガーといった生肉を使用したファストフードチェーンを直撃する。これら企業は、マクドナルドが2012年以降、米国で5億もの取引数を奪ったと主張するライバル社の一部である。

イースターブルックCEOが2015年10月に導入した朝食メニューの全日提供は大ヒットし、売り上げ拡大に貢献した。マクドナルドの株価は今年、25%超上昇している。

生の牛肉の使用は、チキンナゲットなど人気商品における人工保存料の使用中止とともに、よりシンプルで、「クリーン」で、新鮮な原材料を求める顧客のニーズに対応することで、売り上げを押し上げるとアナリストは予想する。

クォーターパウンダーの改良は、オクラホマ州とテキサス州の約400店舗で約2年間、試験的に導入され、アナリストや当地のマクドナルドのフランチャイズ加盟店からすでに支持を集めている。

テキサス州ダラス地域のマクドナルドのマネジャー3人がロイターに語った推定では、広告やクーポンの効果はあるものの、改良によってクォーターパウンダーの売上高が20─50%拡大した。

「この先のワタバーガーから客を奪っている」と、ダラス北部の高級住宅地区にあるマクドナルドのマネジャー、エドガー・メザ氏は言う。テキサス州に拠点を置くワタバーガーはコメントを控えた。

一部のバーガー好きも注目している。

「少しジューシーになった」と語るのは、ダラスのディープエラム地区近くのマクドナルドでクォーターパウンダーを平らげたロブ・ライリーさん。マクドナルドでの食事は、今週でこれが3度目だという。

「ウェンディ―ズが目を覚まさせたのだと思う」

ダラス・フォートワース地域で20店舗を所有しているマクドナルドの元幹部ジョー・ジャスパーさんは、こうした取り組みに深く関わってきた。ジャスパーさんは新クォーターパウンダーについて、「業界最高のバーガーだが、それよりも重要なのは(提供する)マクドナルドのスピードだ」と説明する。

問題は、「マクドナルドのスピード」が多くのライバルほど速くはない、ということだ。

ファストフード業界誌QSRが発表した調査によると、マクドナルドのドライブスルーにおける昨年の平均提供時間は208.2秒。業界トップを走るウェンディーズの169.1秒に大きく水をあけられている。バーガーキング、ダンキンドーナツ、ケンタッキーフライドチキン(KFC)にも負けている。

マクドナルドは2012から2016年にかけて、一部店舗でドライブスルーのレーンを増やすなどして、ウェンディーズとの提供時間の差を3分の1縮小した。だが、それでも昨年の平均提供時間は2012年と比べ、20秒近く遅くなっている。

ダラス郊外のマクドナルド店舗でアシスタントマネジャーを務めるクラウディア・バルセナスさんは、生の牛肉を使用したクォーターパウンダーの提供は、特に焼き加減が「ウェルダン」で注文を受けた場合は遅れることがあると、店員は顧客に伝えているという。

「1分程度、余計に時間がかかることを説明しなければいけない」とバルセナスさんは語った。

この実験的試みが全米店舗に広がるなか、マクドナルドの顧客にとってそれが価値あることなのかどうかはまだ分からない。

ダラスにある別店舗では、ランチタイムにフアン・ロドリゲスさん(20)が生の牛肉を使用したクォーターパウンダーをドライブスルーで待っていた。3分の表示を見て、ロドリゲスさんはイライラし始めた。

「さらにおいしくなっているのであれば、待つのは気にしない」とロドリゲスさん。「でも、味が変わらないなら、待つのは嫌だ」

(Lisa Baertlein記者、Liz Hampton記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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