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焦点:日銀、政策維持の公算 追加緩和は「有事対応」明確に 

2016年10月26日(水)14時05分

 10月26日、日銀は10月31日、11月1日に開く金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を決める公算が大きい。写真は黒田日銀総裁。米国・ワシントンで開かれたIMF・世銀年次総会で、6日撮影(2016年 ロイター/James Lawler Duggan)

[東京 26日 ロイター」 - 日銀は10月31日、11月1日に開く金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を決める公算が大きい。2017年度中としている物価2%の達成時期は先送りとなる可能性が高いが、物価の基調が2%に向かっていくメカニズムは崩れていないと判断しているためだ。

9月の「総括的な検証」と政策の枠組み転換を機に、追加緩和は有事対応との姿勢を一段と明確にする。年間80兆円程度としている国債買い入れペースも維持する見通し。

会合で議論する向こう3年間の経済・物価見通しを示す新たな「展望リポート」では、日銀が目安としている消費者物価(除く生鮮、コアCPI)の前年比上昇率について、現在の16年度プラス0.1%、17年度プラス1.7%を小幅に下方修正する見通し。2017年度中としている2%の達成時期も後ずれする可能性が高い。

足元のコアCPIが8月にマイナス0.5%と日銀の想定よりも弱めに推移しており、当面は物価が上がりづらい状況が続くためだ。

もっとも、見通し期間の最終年度となる18年度については、プラス1.9%の従来見通しを大きく引き下げる必要があるとの意見は少ない。

景気の緩やかな回復が継続する中、政府による財政出動の効果もあり、潜在的な成長力との乖離幅を示す需給ギャップの改善基調が続くと見込まれている。

また、原油価格の持ち直しを背景に、これまで物価の押し下げ要因となっていたエネルギー価格の前年比が、来春にはプラスに転じる見通し。

日銀では、9月の「総括的な検証」で日本の期待インフレ率(企業・家計の物価観)は、実際の物価に引きずられやすいとの分析結果を示している。このため来春以降、足元の物価がプラス幅を拡大すれば、人々の物価見通しも上昇し、18年度には2%が展望できるとの見立てだ。

一方、2%の物価目標実現に対し、市場では懐疑的な見方が多い。このため「2%の達成時期が後ずれすれば追加緩和」という思惑が広がりやすくなっている。実際、ここ数回の金融政策決定会合では、日銀が2%達成時期を先送りする公算が大きいと判断されると、追加緩和期待が盛り上がり、為替や株・金利の乱高下が繰り返された。

今回、日銀にはこの市場心理をけん制する狙いもありそうだ。日銀は9月の金融政策決定会合の声明文で、先行きの金融政策運営について「2%の物価安定目標に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う」と記述した。

この「モメンタムの維持」は14年10月の量的・質的金融緩和(QQE)の拡大と16年1月のマイナス金利導入という大きな政策変更の際に使われた表現。物価見通しの多少の下振れが政策対応に直結するものではない、との姿勢を明確にしたといえる。

当面、日銀が追加緩和の是非を検討する可能性があるイベントとして意識しているのは、米利上げの動向と米大統領選の行方、来年の春闘などとみられる。

市場にある程度織り込まれている米国の年内利上げが見送られれば、急激な円高の進行によって企業収益が圧迫され、投資意欲が冷え込む可能性がある。

また、来年の春闘が不発に終われば、賃上げによる所得引き上げ、消費拡大という物価押し上げのメカニズムが弱まりかねない。

日銀では、物価2%の実現に向けた「モメンタム」の維持には、こうした所得から支出への前向きな循環メカニズムが作動し続けることが重要と位置づけており、失速するリスクが高まる場合は、マイナス金利の深掘りを中心に追加緩和の検討も辞さない構えを強調している。

また、「量」から「金利」への政策の枠組み転換に伴い、国債買い入れ額を年間約80兆円増加させるペースは、「めど」とする柔軟対応に変わった。

日銀は、長期金利が目標の「ゼロ%程度」を大幅に下振れるようであれば、買い入れ減額を進めるとみられる。現時点での買い入れペースが続くと仮定すると、年間買い入れ額は78兆円程度にとどまる見通し。

しかし、日銀はその程度の「誤差」は、現行の買い入れペースの範囲として、80兆円程度の買い入れを維持するとの発信を継続する。

(竹本能文 伊藤純夫 編集:田巻一彦)

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