ニュース速報

ビジネス

焦点:ブレグジットで銀行の影響力凋落、英政府も耳貸さず

2016年10月26日(水)09時03分

 10月24日、英国の金融界はここ数十年、その規模ゆえに政府から優遇されてきた。しかし国民がEU離脱を選択して以来、政治家に耳を貸してもらえないという新たな現実に直面している。ロンドンの金融街で2010年10月撮影(2016年 ロイター/Luke Macgregor)

[ロンドン 24日 ロイター] - 英国の金融界はここ数十年、その規模ゆえに政府から優遇されてきた。しかし国民が欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)を選択して以来、政治家に耳を貸してもらえないという新たな現実に直面している。

6月の国民投票後に誕生したメイ政権は産業の復活と「国民全員のためになる経済」の構築を約束し、金融街シティを不安にさせた。

金融業界は、政府が欧州単一市場へのアクセスを失う「ハードブレグジット」を選べば悪影響が及ぶと訴えている。しかしロイターが取材したシティの大手金融機関幹部らの多くによると、政府は主張に懐疑的で、「英国はEUを離脱してもやっていける」という国民投票のメッセージを無視していると非難されることもあるという。

英銀行協会(BBA)のロナルド・ケント氏は「1940年代に逆戻りしたようだ。国民は英国を倒そうとしているのだから、そこら中に第5列がいるようなものだ」と嘆く。第5列とは、外の敵を助けて密かに国家に反逆する一味のことだ。

BBAのアンソニー・ブラウン会長は23日、国際的大手行が国外移転を計画しているとし、国民と政府の議論が「われわれを間違った方向に連れて行こうとしている」と述べた。

英国民投票で離脱派が勝利した背景には、移民の流入抑制を求める声と並び、銀行を含むロンドンのエリート層に対する反発があったとされる。

ハモンド財務相と財務省幹部らは金融業界は重要だと言い続けているが、裏では金融業界を特別扱いするわけにはいかないと打ち明ける。

政府のEU離脱交渉に通じる関係筋は「交渉で金融業界、いや、いかなる業界であれ優先するのは問題外だ。フェアではない」と言う。

<180度の転換>

業界が離脱の影響を大げさに言い立てているのではないか、との見方も政権幹部の中にはある。

カービー金融サービス担当相は先週議会で、1国の免許があればEU全域で金融サービスを提供できる権利、いわゆる「パスポート」の中には「不要で使われていないものもある」と指摘した。

メイ首相が今月ハードブレグジット寄りの姿勢を示したことは、銀行業界に衝撃を与えた。

「金融サービスを取り巻く環境が変わったのは間違いない」と言うのは、ある国際銀行の上席幹部だ。政府が銀行を見る目が「180度転換した」という。

別の銀行関係者は、政府は特定の産業を特別扱いしないと言いながら、英国のEU残留を強く支持してきた日産自動車には宥和的な姿勢を示しており、金融業界に対する厳しい態度とは対照的だと話した。

<ロビー攻勢が裏目>

金融業界は英国内総生産(GDP)の約1割を占め、年間600億ないし670億ポンドの税金を納めている。業界団体「ザシティUK」の委託で行われた調査によると、ハードブレグジットになった場合、業界の収入は最大380億ポンド減り、英国は7万5000人の雇用を失いかねない。

しかし4カ月間にわたる銀行のロビー攻勢も、一部で裏目に出ているのが実態だ。

財務省はEU離脱交渉における優先順位を決めるため、異なるシナリオ下で各業界の収入や雇用、納税にどのような影響が及ぶかについて徹底的な調査を行っている。政府高官らによると、銀行はそのスケールが分かっていないという。

ある関係者は、金融機関は呆れるほど多くの要求リストを持ってきて、自分たちの意見に耳を貸してもらえないとすぐに切れるとこぼす。

金融業界が過去に発した警告は結局現実化しなかった、という思いも高官の間にはあるという。

世界金融危機の後、多くの銀行は税金を上げたり規制を厳しくしたりすれば海外に拠点を移す、と政府を脅した。その前には、英国がユーロに加盟しなければロンドンが国際金融センターとしての地位を失うと警鐘を鳴らしていた。

政府高官らと話したあるバンカーは「政府は今度こそ影響を過小評価している。こけ脅しじゃないんだ」と訴える。

英HSBCや米JPモルガン、スイスのUBSは既に、数千人の職を英国外に移すと表明した。しかし政府関係者らは「大脱出」は起こらないと見ている。

政府の考え方を知る関係筋は「米国の金融機関に問い合わせたところ、パリへの金融センター移転は『自分(グローバル行)の目の黒いうちは』あり得ないし、フランクフルトは単純に規模が小さ過ぎるということだった」と語った。

「銀行のロビイストは国民投票で負けたという現実から目をそらしている」とは、保守党議員ジェイコブ・リースモッグ氏の弁だ。

(Anjuli Davies, William James and Andrew MacAskill記者)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル34年ぶり155円台、介入警戒感極まる 日銀の

ビジネス

エアバスに偏らず機材調達、ボーイングとの関係変わら

ビジネス

独IFO業況指数、4月は予想上回り3カ月連続改善 

ワールド

イラン大統領、16年ぶりにスリランカ訪問 「関係強
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中