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焦点:黒田緩和「検証」で枠組み転換の思惑、マイナス金利修正も

2016年07月29日(金)20時37分

 7月29日、今回の金融政策決定会合で、黒田東彦日銀総裁(写真)はマイナス金利付き量的・質的金融緩和(QQE)の「総括的な検証」を執行部に指示した。(2016年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 29日 ロイター] - 今回の金融政策決定会合で、黒田東彦日銀総裁はマイナス金利付き量的・質的金融緩和(QQE)の「総括的な検証」を執行部に指示した。これが急速に市場の注目点として浮上中だ。

専門家からは、現在のマネタリーベース目標から金利ターゲットへの変更、信用緩和への踏み込みなどが検証後にあるのではないかと指摘されている。金融機関収益への影響など副作用が着目されやすいマイナス金利政策の取り扱いも焦点になる。

<前提は2%目標の早期達成、金融政策の限界示す>

総裁が指示した「総括的な検証」は、あくまで現行の2%の物価安定目標を「できるだけ早期に達成する」ことが前提。総裁も会見で「できるだけ早期に2%を達成するという点は、変更するつもりはない」と繰り返した。

このため、検証作業では物価2%目標のあり方には踏み込まず、マイナス金利付きQQEが狙いとする実質金利の低下やインフレ期待の押し上げ、物価の基調に与えた影響などを中心に、それぞれが実体経済や金融市場に与えた効果と副作用について分析が進む見通しだ。

もっとも、市場が注目するのは検証の結果よりも、それを受けて政策の枠組みがどのように変化するかだ。

総裁は会見で3つの次元のこれまでの政策効果を強調するとともに、政策の限界を否定したが、市場では「検証するということは、イコール新たな枠組みに移行することだろう」(クレディ・スイス証券・チーフエコノミストの白川浩道氏)との見方が支配的だ。

総裁も会見で「2%の物価目標をできるだけ早期に実現する観点から検証し、それに応じて必要ならば必要な措置をとる」と明言。枠組み変更の可能性を否定しなかった。

<新たな枠組みとは>

「検証」後に新たな枠組みが導入されるとすれば、どのような選択肢がありえるのかー─。

白川氏が想定するのは、全く異なる金融市場調節方針の設定への移行。年間80兆円の保有国債の増加目標から、日銀保有国債の残高シェアにターゲットを変更する。

現状では日銀保有国債は市場残高の3割を占めるが、これを少しずつ引き上げていく仕組みだ。また、金利目標だけに的を絞ることもあるとみている。

同時に現行の2%の物価目標の柔軟化を図り、2%の物価水準あるいは達成期間の設定を取りやめる可能性もありえるとしている。

ただ、物価上昇への効果があるのかといった点や、マイナス金利をどこまで深掘りできるのかなど、詳細を詰めて実際のアクションを検討するには、時間がかかりそうだと白川氏はみている。

また、国債買入れが限界に近づいているとみられる中で、新たに国債に限らず政府保証債や地方債も買い入れる選択肢もささやかれる。

しかし、そこに踏み込むことの問題点も指摘されている。東京大学大学院の福田慎一教授は「これらの資産は、国債と比べて流通市場での売買高が少なく、流動性が低い資産。このため日銀の買い入れで市場価格が国債以上にゆがむ可能性が高い。価格が上方に大きくゆがめば、仮に日銀がその時点の市場価格で購入しても、いわゆるヘリコプターマネーに近くなると言えるかもれいない」と指摘する。

さらに「信用緩和政策」に踏み込む選択肢も指摘されている。SMBC日興証券・チーフエコノミストの丸山義正氏は、例えば社債の買い入れは、リーマンショック後の09年に企業の金融支援策として行われたが、今回は緩和強化の一環として実施される可能性があると見ている。

ただ、こちらも買入額が巨額になれば、ヘリコプターマネーに近いと福田教授はみている。

<マイナス金利撤回の見方も>

今年1月に導入したばかりのマイナス金利政策の取り扱いも、焦点になりそうだ。

総裁はマイナス金利について「導入を決めて国債のイールドカーブ全体が非常に下がっている。それが設備投資や住宅投資に影響を与えつつある」と述べる一方、「イールドカーブが非常にフラットになって、金融機関の収益状況にどのような影響が出るのかを含めて総括的な検証をする」と金利低下の副作用にも言及した。

専門家からは、こうしたイールドカーブの低下はQQEとマイナス金利の組み合わせで生じた弊害との声もある。日銀内からも、現在の長期・超長期金利の低下は行き過ぎとの声が少なくない。

マイナス金利の導入以降、急速に進んだ金利低下が、金融機関の収益や年金生活者などの生活を圧迫しているとの声も絶えず、マイナス金利政策への批判的な声は依然として消えない。

市場からは「検証結果を受け、マイナス金利の撤回も選択肢として念頭に置いておく必要があるのではないか」(外資系証券)との声も出ている。

(中川泉 伊藤純夫 編集:田巻一彦)

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