ニュース速報

ビジネス

アングル:マイナス金利の副作用顕在化、代替政策めぐり議論

2016年02月12日(金)10時24分

 2月11日、マイナス金利を導入する中央銀行が増加し、金融セクターに取り返しのつかない打撃を与えるのではないかとの懸念が高まってきた。写真は都内の日銀本店前で昨年4月撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)

[ロンドン 11日 ロイター] - マイナス金利を導入する中央銀行が増加し、金融セクターに取り返しのつかない打撃を与えるのではないかとの懸念が高まってきた。

最近の銀行債や株価の下落を受け、融資促進を目的に銀行に事実上の手数料を課すマイナス金利が根本的な解決策というより新たな問題になっているのではないか、というのが多くの投資家の認識だ。

ラボバンクの金利戦略責任者、リチャード・マクガイア氏は「日銀のマイナス金利決定後に銀行セクターが緊迫化したのは決して偶然の一致ではない」と指摘した。

このため市場関係者の間では、もっと思い切った代わりの政策手段がないかを探る動きが広がっている。銀行債や銀行株の買い入れなどのほか、現金への課税まで提唱する向きもある。

日銀が先月初めてマイナス金利を導入し、スウェーデン中銀は11日の会合で政策金利のマイナス幅を拡大した。欧州中央銀行(ECB)も3月の次回理事会で現行マイナス0.3%の中銀預金金利のマイナス幅をさらに10─20ベーシスポイント(bp)広げる見通しだ。

世界的な景気後退(グローバルリセッション)を話題にする一部のエコノミストからは、昨年12月に利上げした米連邦準備理事会(FRB)でさえ、マイナス金利を採用する事態を検討している。

今週の株安は、ずっと前から知られていたマイナス金利の副作用にあらためて注目を集める結果になった。欧州の銀行株は数年来の安値に沈み、銀行の劣後債のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)プレミアムは年初来で80%強上昇している。

マイナス金利下では、銀行は中銀に預けているお金について手数料を徴収される。しかしそのコストを預金者に転嫁しようとすれば、預金が引き出され、銀行のバランスシートに大穴があくので、コスト転嫁は難しい。

<代替策>

中銀は、銀行の痛みを和らげるためにマイナス金利の適用範囲を限定することができる。日銀は実際に当座預金金利に階層構造を設けており、ECBも同様の措置を検討しているとされる。

もっともECBは景気テコ入れという効果が薄れるようなそうした中銀預金金利の修正は実行しそうにない。ただし欧州の銀行セクターがマイナス金利の副作用にさらされている以上、代替策の模索は続いている。

ECBの政策担当者は過去に、銀行債や社債、あるいはよりリスクの高い資産担保証券(ABS)を買い入れプログラムの対象に含める案を検討した。プラート専務理事は、理論的には現物株や金の買い入れもできると発言した。

これらの措置は、ECBがユーロ圏のすべての加盟国で政策を実施する点を考えれば現実的には困難だが、まったく不可能でもない。1年か2年前までは、国債買い入れやマイナス金利などは政策の「邪道」とみなされていたのだ。

前例という面では、1990年代後半のアジア金融危機において、香港の中銀が上場株の20%前後を買い取ったケースがある。また日銀は最近、上場投資信託(ETF)の買い入れを増額した。

<マイナス金利拡大予想>

マイナス金利が拡大し、銀行が支払う手数料が増えていけば、どこかの時点で銀行は現金保有に切り替え、厳重に警備された金庫にそれらの現金を退蔵すると考えられる。

現金は金利を生まず警備コストもかかる。それでも多額の手数料を払うより安いからだ。そこで学界の一部では昨年、現金への課税も論じられたが、それは銀行セクターの緊張を増幅させるだけに終わるだろう。

そして市場でマイナス金利の副作用が懸念されているにもかかわらず、中銀当局にとっては少なくとも当面、マイナス金利が政策手段の1つであり続けるように見える。

JPモルガンは今週、ECBは年央までに中銀預金金利をマイナス0.7%まで引き下げ、理論的には長期的にマイナス4.5%まで下げられるとの見方を示した。

FRBはマイナス1.3%、イングランド銀行(英中央銀行、BOE)はマイナス2.5%、日銀はマイナス3.45%までの引き下げが可能だという。

(John Geddie、Marc Jones記者)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中