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焦点:米FRB、現状のリスク判断維持でも9月利上げは可能

2015年07月31日(金)12時58分

 7月30日、米FRBが9月に利上げするのかどうかをめぐり、29日に終わったFOMC声明文の「(米経済の)リスクはほぼ均衡している」とのフレーズがどうなるかが、市場関係者の注目を集めていた。写真は、イエレン米FRB議長、6月撮影(2015年 ロイター/Carlos Barria)

[ワシントン 30日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)が9月に利上げするのかどうかをめぐり、29日に終わった米連邦公開市場委員会(FOMC)で声明文の「(米経済の)リスクはほぼ均衡している」とのフレーズがどうなるかが、市場関係者の注目を集めていた。

FRBが依然として物価加速と成長過熱よりも新たな景気下振れ材料が出てくる懸念が大きいとみなしていることを意味するこのフレーズから、「ほぼ(nearly)」という単語が消滅すれば、利上げは決まったも同然になると考えられたからだ。

しかしFRB元当局者の見方やFRBの過去の金融政策運営に照らすと、FRBが9月に利上げする上でリスク判断を修正する必要はないとみられる。

過去10年間のFOMC声明を点検すると、リスクに関する文言はFRBの金融政策変更を予想する上で優れた判断材料とは言えない。

FRBは2004年6月に利上げを決めたが、それまで数カ月にわたり米経済のリスクについて「おおむね等しい」との見方を示し、利上げ後も約1年間にわたりこの表現を維持した。

コーナーストーン・マクロのエコノミストで元FRBスタッフのロバート・ペルリ氏は「中国、原油、欧州などの材料があり、リスクはやや下振れ気味に見える」としながらも、今の声明文のリスクに関する文言は「大きな制約ではない。金融政策は極めて緩和的で、リスクが『ほぼ均衡している』と言っても25ベーシスポイントの利上げは正当化できる」と主張した。

FRBの元調査ディレクターでピーターソン国際経済研究所のフェローを務めるデービッド・ストックトン氏は「率直に言って、リスクが完全に均衡することはない」と指摘。ただ「労働市場で相当にひどい失望的な数字が出なければ、FRBは利上げに動く用意があり、それが9月になる確率は50%より大きいようだ」と述べた。

8月27─29日に米ワイオミング州ジャクソンホールで開かれる年次経済シンポジウムは、必要とあれば米経済についてFRBがメッセージを送る機会になる。しかしイエレンFRB議長は今年の会合を欠席すると発表しており、現時点では主要な政策スピーチの予定は組まれていない。

FRB当局者は安定した雇用の伸びにより賃金が上昇し、物価が上がるのを目にしたいのだろう。しかし中国経済の減速による世界的な需要の落ち込みや原油などコモディティ価格の下落を考えると、実際に物価が上向くのは難しいことが分かってくるかもしれない。それらを踏まえれば、FRBがリスクは均衡しているとの結論を下すのは一層困難になる。

しかしだからといって政策変更が不可能だとは言えない。過去においては、FRBがあるFOMCで経済情勢の変化を受けてリスクバランスを一方向に傾けたのに、次のFOMCでそれとは反対の方向に政策を動かしたケースもあった。

住宅・金融危機が初期段階にあった07年に、FRBは8月のFOMCで経済の悪化ではなくインフレ上昇をめぐる懸念を重視して金利を据え置いた。しかしその1カ月後には0.5%の利下げを実施し、政策金利がほぼゼロになるまで下げ続けた。

ジョンズ・ホプキンズ大の経済学教授でイエレン議長の顧問を務めたジョン・ファウスト氏も、インフレが本当の懸念材料になるまでは声明の文言は変化しないかもしれないが、それはFRBが利上げサイクルの開始を遅らせることを意味しないとの立場だ。「事実上のゼロ金利を違和感なく解除して金融政策が正常な状態に近づくまでは、リスクが均衡したとは言い難い」と話した。

(Howard Schneider記者)

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