ニュース速報

ビジネス

情報BOX:ギリシャ国民投票、どちらに転んでも混迷続く

2015年07月03日(金)19時03分

 7月3日、欧州連合(EU)など債権団が突き付けた緊縮財政要求に対して、ギリシャのチプラス首相は5日に国民投票を実施することを決めた。写真は投票の準備をする男性、クレタ島で2日撮影(2015年 ロイター/Stefanos Rapanis)

[アテネ 3日 ロイター] - 欧州連合(EU)など債権団が突き付けた緊縮財政要求に対して、ギリシャのチプラス首相は5日に国民投票を実施することを決めた。投票結果は不透明だが、緊縮策に「イエス(賛成)」となっても「ノー(反対)」となっても新たな不透明感や政治混迷が生じる見通しだ。

投票後のメーンシナリオは以下の通り。

<国民投票でイエス>

ギリシャの左派政権は大々的に反対票を投じるよう国民に呼びかけている。チプラス首相は債権団の提案をギリシャに対する「侮辱」だとしており、国民投票で緊縮策に賛成となれば退陣する意向を強く示唆している。

チプラス首相が辞任した場合、通常なら解散総選挙に進む見通しだ。総選挙は9月に実施されるとの観測もある。

ただ、ギリシャは7月中に主要な債務返済期限を迎えるほか、銀行閉鎖を余儀なくされるという金融危機のさなかにあることを考慮すれば、債権団との交渉を続けるために総選挙までの「挙国一致」暫定政権の樹立を大統領が推し進めるだろう。

ただ、暫定政権の樹立は難航しそうだ。

中道政党・ポタミ、中道左派・全ギリシャ社会主義運動(PASOK)、保守派・新民主主義党(ND)といった親欧州政党は挙国一致政権への参加に意欲を示しているが、これらを合わせても議会(定数300)のうち106議席を占めるに過ぎない。

そのため、現与党の急進左派連合(SYRIZA)と連立相手である右派・独立ギリシャ人党がそうした暫定政権を支援、もしくは暫定政権に参加する必要が出てくる。この場合、無所属の政治家もしくはテクノクラートと呼ばれる実務者が政権を率いることになりそうだ。

賛成票を投じるよう国民に呼びかけているコスタス・カラマンリス元首相は、そうした候補の1人だ。

救国政権はギリシャではこれまでにもあった。2011年には当時のパパンドレウ首相が国民投票の実施計画を持ち出したものの、退陣に追い込まれ、翌年の総選挙まで主要政党の支援を受けた実務者が政権を担った。

SYRIZAの一部関係者によると、緊縮策に「イエス」となった場合、チプラス首相自身は職にとどまり、総選挙を実施するとの前提の下で債権団との交渉を続けようとするかもしれないという。

ユーロ圏の政策立案者らは緊縮策に賛成するようギリシャ国民に呼びかけている。

ドイツのメルケル首相は第3次ギリシャ支援交渉の準備があるとの姿勢を示している。ただ、独当局者の間には、支援を受けることに前向きな新政権がギリシャで発足し、欧州中央銀行(ECB)への返済期限を迎える今月20日までに第3次支援を交渉できるかどうかに疑念の声もある。

<国民投票でノー>

ギリシャ政府当局者は、国民投票の結果が「ノー」であれば、債権団との交渉力が強まるとしている。ただ、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)のデイセルブルム議長(オランダ財務相)らユーロ圏の政策立案者はこの見方を断固否定している。

チプラス政権は債権団との協議を早急に再開すると表明しているが、欧州当局者は、改革案否決が債権団との交渉の拒否と解釈されることから、新たな支援策で合意することは非常に困難になると考えている。

ユーロ圏政策立案者は、改革案の否決は通貨ユーロの拒否を示唆し、追加支援の可能性へのドアを閉ざすことになると警告してきた。

ギリシャは7月20日に期限を迎えるECBへの大規模な返済でデフォルトに陥る可能性が高い。金融危機は急速に悪化し、不透明感の高まる中、銀行が営業する可能性は低いとみられる。ECBは、ギリシャの銀行に対する緊急流動性支援(ELA)を引き続き凍結することが見込まれ、銀行破綻の危機にひんするなか合意を目指すチプラス首相への圧力はさらに高まるだろう。

そうなれば、チプラス首相が辞任し、新たな挙国一致政権の樹立に道が開ける可能性がある。挙国一致政権はその場しのぎのためIOU(借用証書)を発行して二重通貨制度を選ぶことも予想され、事実上「グレグジット(ギリシャのユーロ圏離脱)」に向かうことになる。

ロイター
Copyright (C) 2015 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米AT&T、携帯電話契約者とフリーキャッシュフロー

ワールド

韓国GDP、第1四半期は前期比+1.3%で予想上回

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、米金利高止まりを警戒

ワールド

メキシコ大統領選、与党シェインバウム氏が支持リード
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中